KADOKAWA Technology Review
×
MITTRが選ぶ35歳未満のイノベーター「IU35 2024 Japan」発表!
11/20授賞式開催決定
「とても楽だよ」脳インターフェイスで意思を伝えた全身麻痺患者
Nature
生物工学/医療 無料会員限定
A locked-in man has been able to communicate in sentences by thought alone

「とても楽だよ」脳インターフェイスで意思を伝えた全身麻痺患者

意識はあるが全身麻痺状態にある男性が、脳に取り付けた電極を使って文章でコミュニケーションを取ることに成功した。男性はスープやビールを注文し、家族と息子について話すことさえできるようになった。世界初の快挙だ。 by Jessica Hamzelou2022.04.05

ある全身麻痺状態の男性が、自身の脳活動を記録する装置を使って、完全な文章を伝達することに成功した。男性は、脳に埋め込まれた装置を使い、脳の使い方を鍛えることで、マッサージやスープ、ビールを注文し、息子と一緒に映画を見られるようになったという。

世界を変える10大技術 2022年版
この記事はマガジン「世界を変える10大技術 2022年版」に収録されています。 マガジンの紹介

「完全閉じ込め症候群」の患者、つまり意識と認知能力はあるが完全な麻痺状態の人物が、このようにコミュニケーションできたのは初めてだ——プロジェクトを手がけた研究者たちはそう語っている。

脳コンピューター・インターフェース(BCI)は、人間の脳内の電気信号を記録し、装置を制御するコマンドに変換する。近年、BCIによって、部分的に麻痺した人が義肢を制御したり、頭脳だけで「はい」や「いいえ」といった単純なコミュニケーションをとれるようになった。だが、目の動きさえコントロールできない完全閉じ込め症候群の患者が、BCIを使って完全な文章を伝達できたのは初のことだ。

「完全閉じ込め症候群の患者とのコミュニケーションを再び確立できたというのは、本当に驚くべきことです」。スタンフォード大学の脳神経外科医で、この研究には関与していないジェイミー・ヘンダーソン教授は話す。「私からすればこれは大きなブレイクスルーであり、被験者にとっては明らかに大きな意味を持つことです」。

ドイツ在住のこの男性は、2015年8月、当時30歳のときに筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。ALSは、まれに発症する進行性の神経疾患で、運動に関わるニューロンに影響を及ぼす。その男性は、2015年末には話すことも歩くこともできなくなっており、2016年7月以降は人工呼吸器を使って呼吸するようになった。

2016年8月、男性は視線追跡装置を使ったコミュニケーションを始めた。この装置は、目の動きを追跡し、コンピューター画面から文字を選択できるようするものだった。だが1年後、男性の容態は悪化し、特定の場所に視線を定められなくなった。そのため、装置は役に立たなくなってしまった。男性の家族は、紙を使ったアプローチを始めた。この手法では、文字が格子状に配置され、背景が4色に塗り分けられた紙を家族が持つ。家族は、色が塗られたそれぞれのセクションと行を指して、目が動けば「はい」と解釈する。

男性と家族は、最終的に目を動かす能力までも失うことを懸念し、当時テュービンゲン大学に在籍していたニールス・ビルバウマー教授と、コミュニケーション手段を持たない患者にBCIなどのテクノロジーを提供する非営利団体「ALSボイス(ALS Voice gGmbH)」のウジワル・チャウドハリ理事に助けを求めた。

2018年2月に男性と会ったチャウドハリ理事は、男性の家族がそのときまでに使っていたコミュニケーション・システムの自動化を試みた。研究チームは、視線追跡装置をコンピューター・ソフトウェアに接続した。色と行番号を読み取るそのソフトにより、男性は目の動きを使って1文字ずつ選択することで、単語を綴れるようになった。

しかし、男性が目の動きをコントロールできなくなるにつれ、そのデバイスを使用したコミュニケーションも次第にできなくなっていった。「私たちは(電極の)埋め込みを提案しました」とチャウドハリ理事は話す。脳細胞の電気的活動を直接記録するために、小さな電極を脳に埋め込むことができる。その手術では、頭蓋骨に穴を開けて脳の保護層を切り取るケースが多いが、感染の危険性や脳へ損傷を与 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. The winners of Innovators under 35 Japan 2024 have been announced MITTRが選ぶ、 日本発U35イノベーター 2024年版
  2. Kids are learning how to make their own little language models 作って学ぶ生成AIモデルの仕組み、MITが子ども向け新アプリ
  3. AI will add to the e-waste problem. Here’s what we can do about it. 30年までに最大500万トン、生成AIブームで大量の電子廃棄物
  4. This AI system makes human tutors better at teaching children math 生成AIで個別指導の質向上、教育格差に挑むスタンフォード新ツール
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る