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武田俊太郎:日本発の技術で光量子コンピューターの道を開く研究者
写真:是枝右恭
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The Researcher is taking on the challenge of developing large-scale optical quantum computer

武田俊太郎:日本発の技術で光量子コンピューターの道を開く研究者

汎用性と拡張性を兼ね備えた独自のループ構造を持つ光量子プロセッサーで、大規模な光量子コンピューター実現に挑戦しているのが、東京大学の武田俊太郎准教授だ。その画期的な発想に至った背景とは。 by MIT Technology Review Japan2022.03.24

「量子の世界を自分で操れるのが、すごくかっこいい」。

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この記事はマガジン「世界を変えるイノベーター50人」に収録されています。 マガジンの紹介

学部4年生のときの実験室見学で、そう感じて量子情報物理の世界に入ったと語る武田俊太郎准教授に、東京大学本郷キャンパスにある実験室を案内してもらった。

温度による影響を避けるため季節を問わず気温20°Cにコントロールされている室内には、4.2×1.5メートルほどの大きさのテーブルが2つ設置されていた。

地面の振動を遮るために空圧で浮いているテーブル上には、小さなミラーやレンズ、フィルターが500枚程度、ごちゃごちゃと配置されており、その上には透明なフタが乗せられている。もちろん適当に置かれているわけではない。「光量子コンピューター」の光回路を構成する部品群である。

つまり、テーブル全体が量子コンピューターなのだ。テーブルの端に設置された赤外線レーザーから発せられた光が、部品群の間を一筆書きのように通り抜けることで計算が実行される。

部品間の距離は検出器の計測で10万分の1ミリの精度でフィードバック制御されている。だが「最初は手です。傾きはノブで微調整します」。設計どおりに実際にテーブル上でシステムを組んでいく作業には「かなりの根気が必要」だと言う。しかし武田は「やってみるとすごく楽しいです。レゴブロックに近い感覚です」と語る。「自分の中のイメージどおりに、必要であれば手作りのパーツも使って組み上げていく。興奮します」

光の量子コンピューターは常温で動作する

コンピューターは情報を「ビット」という0と1で表して論理演算を行う。量子コンピューターは、量子力学特有の0と1の重ね合わせ状態と量子もつれ状態という現象を利用した計算機である。重ね合わせ状態とは、文字どおり複数の状態が1つの量子に重ね合っていること。量子もつれとは、重ね合わせ状態の量子同士が互いに相関する特殊な状態のことだ。どちらも日常的な感覚では理解が難しいのだが、量子コンピューターはこのような量子の世界の物理現象を利用する計算機である。

扱いは難しいが、うまく使うことができれば大量の情報の並列処理が可能になり、従来のコンピューター単独では解くことが難しい問題、すなわち新素材開発や薬剤開発などのさまざまな分野に革新をもたらすのではないかと考えられている。なぜか。自然は量子力学に従っている。量子論的に振る舞う電子など自然界を正しくシミュレーションしたいのであれば、情報を重ね合わせで表現し、重ね合わせ具合を変化させながら計算する量子コンピューターのほうが効率よく計算できるからだ。

量子コンピューターには、0と1の重ね合わせ情報の「量子ビット」を何で構成するかによって、いくつかの方式がある。IBMなどが取り組んでいる、超伝導回路で量子ビットを構成する方式が実用化では一歩先を進んでいるが、開発は途上であり、本命がどれになるかは、まだ明らかではない。武田は「今は山登りで例えると1合目か2合目くらい」と言う。

武田らが取り組んでいる「光量子コンピューター」は、光の粒子、光子に量子ビットを乗せて光回路で計算する。光は一箇所に止まらずに進んでいくので、その通り道にレンズやミラーを使って演算をするための特殊な回路を構成し、光が通っていく過程でステップごとに計算が実行される。

超伝導回路やイオンを使う方式との大きな違いは、常温・大気中で制御できることだ。それらは極低温や真空中でないとそもそも動かないのである。だが光の場合はその必要がないため、特殊な冷凍機や真空装置などが不要で、一度、量子状態を生成すればそのまま保持できる。従来の光制御の技術が使えることも利点だ。通信との相性もいい。

「量子コンピューター同士の処理を通信で連携するなら、ほぼ光一択です。もともと光で構成されているなら、そのまま光子をやりとりすればいいですから」

これらの利点から光方式は近年注目されている。ただしネックもある。静止している超伝導回路やイオンを量子ビットとして使う方式に対して、光子は光速で動いている。そして光量子コンピューターでは演算回路が光の経路に従って並べられているため、大規模化しようとすると量子ビット数や計算ステップに比例して光回路自体がどんどん大きくなってしまうのである。また、異なるプログラムを実行しようとすると、光学部品を組み直す必要がある。これでは大規模化は難しい。回路をチップ化する研究もあるが、実際にはなかなか難しく、現状では品質もあまり …

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