2021年、デジタルアート、音楽、映像などに関連付けられるNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)市場は、440億ドルに急成長した。これにより、大半のNFTが売買されているブロックチェーンのネットワークであるイーサリアム(Ethereum)が大きく注目されることになった。また、暗号通貨のマイニング(採掘)による膨大なエネルギーの浪費にも大きな注目が寄せられた。
ブロックチェーンには、取引を検証する銀行のような中央監督機関は存在しない。2大暗号通貨であるビットコイン(Bitcoin)とイーサリアムは、どちらも「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of work)」と呼ばれるブロックチェーン内の合意形成メカニズムを採用し、時系列に並んだ取引台帳を維持している。このプロセスの中心にいるのが暗号通貨のマイナー(採掘者)だ。
非中央集権型システムの実現には莫大な費用がかかる。プルーフ・オブ・ワークでは、そのコストはコンピューティング能力だ。プルーフ・オブ・ワークでは採掘者が、複雑な数学問題を解くために競い合う。最初に問題を解いた採掘者は、ブロックチェーンに新しいブロックを追加して元帳を更新し、新しく「鋳造」された暗号通貨を報酬として得る。この作業には莫大なコンピューティング能力、つまり電力が必要になる。
デジタル経済専門サイトの「デジコノミスト(Digiconomist)」によると、イーサリアムはオランダ全体の年間電力消費量に匹敵する113テラワット時の電力を使っている。イーサリアムの1トランザクションで消費される電力は、平均的な米国家庭の1週間分の消費量を上回る。ビットコインのエネルギー消費量はさらに大きい。
世界は現在、深刻な電力不足に陥っている。昨年、中国が暗号通貨の採掘を禁止した理由の1つでもあり、採掘者が拠点を移したコソボやカザフスタンをはじめとする国々が採掘者を追い出したり電力の供給を遮断したりしている理由でもある。これらの国では、一般企業が事業を継続し、国民が暖かい部屋で生活するための電力が必要だからだ。
プルーフ・オブ・ワークは電力を浪費するだけでなく、電子機器のゴミも生み出す。暗号通貨の採掘に使われる専用のコンピューター・サーバーは、1年半ほどで陳腐化してしまうことが多く、最終的に行き着く先は埋立地だ。
イーサリアムの仕組みにはほかにも欠点がある。うんざりするほど遅く、1秒間に処理できるトランザクションは平均で15件程度だ。しかもスケールしない。参加者がネコを育てるイーサリアム・ベースのゲーム「クリプトキティズ(CryptoKitties)」は2017年、ネットワーク上にトランザクションが積み重なり、停滞する事態を引き起こした。
ベンチャーキャピタル企業がWeb3に大金を注ぎ込んでいる今だからこそ、イーサリアムはプルーフ・オブ・ワークの採掘と関係を断つ良いタイミングなのだ(Web3はすべてのアプリが分散型ブロックチェーン上で稼働する未来的なモデルで、その大半はイーサリアムを利用している)。そして、それがイーサリアムの戦略でもある。
2022年上半期のある時点で、イーサリアムは「ザ・マージ(The Merge)」と呼ぶ大型アップデートを実施し、ネットワーク全体を別の合意形成メカニズムである「プルーフ・オブ・ステーク(Proof of stake)」へ移行する計画だ。プルーフ・オブ・ステークへの切り替えによってエネルギー消費量は99%削減され、ネットワークのスケールが可能になり、1秒間あたり10万件のトランザクションを処理できるようになる予定だ。
イーサリアムのプルーフ・オブ・ステークへの移行は、この数年間、常に「あと半年」で実現すると言われてきた。「私たちは、プルーフ・オブ・ステークの実装には1年ほどかかると考えていました。(中略)しかし、実際には6年かかっています」。イーサリアムの開発者ヴィタリック・ブテリンは、2021年5月にフォーチュン誌に語っている。理由は、プルーフ・オブ・ステークのようなモデルの構築が思いのほか複雑だからだ。
プルーフ・オブ・ワークとは?
最初のブロックチェーンは、ビットコインだった。ビットコインの開発者は、第三者(大銀行や国家であることが多い)が持つ金融システムへ支配力を排除したいと考えていた。
ブロックチェーンでは参加者が共有台帳を維持する。このため、ビットコインの開発者はユーザーがシステムを操作したり、同じ暗号通貨を2回使ったりし …