ジョー・バイデン副大統領の 「がん撲滅のための国家プロジェクト」 が、実際にがんの予防や診断、治療スピードを倍にするにば、より多くのデータが必要になる。首都ワシントンで開催された「がん撲滅のための国家プロジェクト」で30日に発表された、米国国立がん研究所(NCI)と、腫瘍ゲノムの配列を解析する検査を販売するバイオ技術企業、ファウンデーション・メディシンの間で交わされた取り決めような、より多くのデータ共有の準備が欠かせない。
計画の進捗を加速させるため、バイデン副大統領はより多くのデータ共有と、産学官のがん研究者の連携を呼びかけた 。今後NCIに対し、1万8000人の成人から得た腫瘍ゲノムの「プロフィール」を提供することになるファウンデーション・メディシンは、NCIが新たに構築する公共データベースで、がんゲノム学の解析プラットフォームとなる「Genomic Data Commons(ゲノム・データ・コモンズ)」に貢献する初の企業になる。新しいデータが加わることで、NCIのデータベースのサイズは倍になるが、このことは、バイデン副大統領のプロジェクトや、オバマ大統領の 「Precision Medicine Initiative(プレシジョン・メディシン・イニシアチブ)」にとっては不可欠だ。このデータベースは、多くのがんに見られる遺伝子異常の研究者に役立ち、新しい治療機会につながり得る。
今日まで、NCIのデータベースには約1万4500人のがん患者の腫瘍から得たシークエンシング情報が保存されている。情報には、患者たちが薬にどう反応したかについての臨床データも含まれる。大型データベースによって、研究者ががんの本質の理解を深め、なぜ一部の腫瘍は薬に反応し、他の腫瘍は薬に反応しないのか、そしてなぜ一部の腫瘍は薬に反応してもやがて再発するのか、に関する手がかりがつかめるかもしれない。
ただし、ファウンデーション・メディシンが自社のすべての情報を提供するわけではない。なぜ患者が薬に反応したのかの情報は含まれないからだ。だが、データセットが大きければ、新発見の可能性は高くなるため、NCIのがんゲノム学センターのルイ・スタウト所長は、NCIの既存データ源にとっては「劇的な」追加であるという。
「患者数が倍以上になることで、がんを理解するためのデータベースの説明能力が大幅に高まります」
できるだけ多くの生物学的情報を利用することで、個人や、個々の病気により適合する「適確医療」を提供するのがプレシジョン・メディシンの意図だ。だが、がん(少なくとも200の型 と、腫瘍ゲノムの特異的異常と定義される、はるかに多くの亜類型がある)は、決して単一の疾病ではなく、これががんに「的確医療」を施すときの課題となる。
がん患者の中には、極めて少人数にしか見られない特殊な腫瘍であることがある、とスタウト所長はいう。場合によっては、こうした希少ながんに作用する薬もあり、同様に、薬の新しいターゲットになりうる未発見の珍しい変質もあるだろう。より多くの患者をNCIのデータベースに加えることで、そうした発見に役立つ。
スタウト所長は、ファウンデーション・メディシンによるデータ提供が、がんゲノム学にとって貴重なデータセットを所有する他のグループにも影響を与えることを願っている。NCIも NCI-MATCHのような、特異的異常を含む腫瘍のある大勢の患者に標的治療を試すことに重点を置いた、革新的な臨床試験を通じて独自に新データを生み出す。
理想的には、膨大な患者のシークエンシング情報と詳細な臨床情報(特に治療結果)の両方が含まれた収集物が必要だ、と米国臨床腫瘍学会のクリフォード・ハディスCEOは語る。つまり、医師は今後、診療記録の多くのデータを入力し、入力したデータはコンピュータで読めなければならなくなる、とハディスCEOはいう。
しかし、この種の情報を1つにまとめれば、患者のプライバシーへの懸念は高まり、データ共有に関する法律は複雑化するだろう。また、 民間企業がいつも自ら進んで自社データを提供するとは限らない。ファウンデーション・メディシンが今回データを提供したのは、プレシジョン・メディシンを「加速する」ためだ、としている。「恐らく、これが私たちに活を入れてくれるでしょう」とハディスCEOは語った。