監視カメラの顔認識が助長するニューヨーク市警の差別的取締り
アムネスティ・インターナショナルの報告書によると、ニューヨーク市には2万5500台以上の監視カメラが設置されており、監視カメラの台数が多い地域ほど警察による職務質問および持ち物検査の頻度が高いという。 by Tate Ryan-Mosley2022.02.17
アムネスティ・インターナショナルの「デコード・サーベイランス・ニューヨークシティ(Decode Surveillance NYC、ニューヨーク市の監視体制を読み解く)」プロジェクトが新たに発表した報告書によると、ニューヨーク市内で「ストップ&フリスク」と呼ばれる、警察による職務質問が実施される割合が高い地域には、より多くの監視カメラが設置されていることが分かった。
2021年4月に開始された今回のプロジェクトでは、7000人以上のボランティアが、グーグル・ストリート・ビューでニューヨーク市内を調査してカメラの位置を記録した。交差点4万5000カ所を3回ずつ調査し、2万5500台以上のカメラの存在を突き止めた。報告書では、これらのカメラのうち約3300台が公有のもので、政府や司法当局で使用されていると見ている。さらに、このデータを基に、2万5500台すべてのカメラの座標を示す地図を作成した。地図作成にあたっては、テクノロジーに特化した市民団体であるベータ・ニューヨークシティ(BetaNYC)と、契約を結んだデータ科学者の協力を得た。
データを分析すると、ブロンクス、ブルックリン、クイーンズでは、有色人種の多い国勢統計区に公有のカメラが多く設置されていることが分かった。
アムネスティの研究者とパートナーのデータ科学者は、カメラの分布が警察の捜査とどのように関連しているかを調べた。ニューヨーク市警が持つ既存の住所録を使い、各国勢統計区(郵便番号よりも小さい区画)における、2019年の住民1000人あたりの「ストップ&フリスク」の発生頻度を割り出した。ストップ&フリスクでは、警察官が「合理的な疑い」に基づいて市民に無作為に職務質問をすることを認めている。報告書で引用されているニューヨーク市警察のデータによると、ニューヨーク市内では2002年以降、500万回以上のストップ&フリスクが実施されており、その大部分は有色人種に対してであることが明らかになった。ニューヨーク市の米国自由人権協会(ACLU:American Civil Liberties Union)によると、ストップ&フリスクを受けた人のほとんどは無実であったという。
専門家は、法執行機関がこれらのカメラからの映像を顔認識技術で使用するようになり、その際、有色人種を不均衡に標的にするのではないかと懸念している。監視技術監視プロジェクト(STOP:Surveillance Technology Oversight Project)が公文書請求で入手した文書によると、ニューヨーク市警は2016年から2019年にかけて、物議を醸しているクリアビューAI(Clearview AI)のシステムをはじめとする顔認識技術を、少なくとも2万2000件で使用していた。
アムネスティ・インターナショナルの研究員であるマット・マフモディは、「私たちの分析では、ニューヨーク市警は顔認識技術を使用することで、ニューヨーク市のマイノリティ・コミュニティに対する差別的な取り締まりを強化しています」と語った。
また、昨年のブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)の抗議デモでは、デモ行進のルートに監視マップを重ね、参加者が顔認識技術の標的にされていたことも詳述されている。今回の調査で分かったのは「監視体制がほぼ完全であること」だったとマフモディ研究員は言う。抗議デモ中に顔認識技術がどのように使用されたかは正確には不明だが、ニューヨーク市警はすでに、あるデモ参加者の調査に顔認識技術を使用している。
2020年8月7日、ニューヨーク市の警察官数十人(一部は防護服を着用)が、ブラック・ライブズ・マターの活動家であるデリック・イングラム(28)の家を訪れた。イングラムには、デモ行進中に警官の耳元で拡声器を使って叫び、警官に暴行を加えた疑いがかけられていた。現場にいた警察官は、『顔認識セクション情報手がかりレポート』と題された書類を調べているところを目撃されており、その中にはイングラムのSNSの写真と思われるものが含まれていた。ニューヨーク市警は、イングラムの捜索において顔認識技術を使用したことを認めた。
米国の多くの都市が正確さや偏見への懸念から顔認識技術の使用を禁止しているにもかかわらず、2022年1月にニューヨークの新市長に就任したエリック・アダムスは、顔認識技術の使用を拡大することを検討している。
ジョージタウン大学ローセンター のプライバシー・アンド・テクノロジー・センター(Center on Privacy and Technology)のジェムソン・スピバック准教授は、アムネスティのプロジェクトについて、「特に白人以外の住民が多い地域でどれだけ広範な監視が実施されているか、また、警察が顔認識をするのに使える映像がどれだけ多くの公共の場所で記録されているかを知ることができます」と述べている。
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- テイト・ライアン・モズリー [Tate Ryan-Mosley]米国版 テック政策担当上級記者
- 新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。