国内外で活躍するスタートアップ企業やJAXAなど、宇宙ビジネスに関わる25の企業・団体が参加する展示会「TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2021」が、2021年12月14〜15日、東京・日本橋で開催された。当日の発表の中から、今後の展開が期待されるスタートアップ企業の取り組みをピックアップして紹介する。
水を利用した人工衛星向けエンジンを開発するペールブルー
東京大学発の宇宙スタートアップ企業であるペールブルー(Pale Blue)は、小型人工衛星に搭載する独自の水エンジンを開発している。東京大学で10年以上、水エンジンの開発に関わってきた共同創業者兼代表取締役の浅川 純氏は、プレゼンテーションで「宇宙機用の推進エンジンには、安全性、持続可能性、低コスト性の3つが必須要件として求められる」と述べ、水の特徴について「可燃性もなく安全で安定性も高い。また、水は地球上に存在している持続可能性なエネルギー源であり、他の物質と比べて圧倒的に生産量が多いためコストも低い」と説明した。
ペールブルーが開発する水エンジンは、液体の水を水蒸気にして宇宙空間に高速に吐き出すことで推進力を得る「レジストジェットスラスター」、水を燃料にしたプラズマ式推進機「イオンスラスター」、それら2つの方式を1つのモジュールに結合した「ハイブリッドスラスター」の3種類。
「レジストジェットスラスター」は短時間で大きな推進力を出せるが、燃費はあまりよくない。逆に「イオンスラスター」は、推進力は弱いが燃費がよく、「ハイブリッドスラスター」は状況に応じて大きな推進力を出したり高燃費での移動もできる。そうやって各エンジンの特徴を生かせば、さまざまな用途に応じた衛星への搭載が選択できるという。対応する小型衛星は、小さいもので4キログラム程度、大きいもので150キログラムを想定している。「現状の小型衛星のように、燃料がなくなったら廃棄するのではなく、将来的には宇宙空間で燃料としての水を補給するサービス事業などにも乗り出したい」(浅川代表)。
これらの水エンジンで共通に利用されるのは、20℃から30℃という低温で水を水蒸気に変え、低い電力でプラズムを生成できるという、浅川代表らが東京大学在籍時代に開発した独自技術だ。今後の計画として、2022年には複数の小型衛星に水エンジンを搭載し、実際に打ち上げて実証し、2030年から2050年までの実用化を目指している。
2040年までに1000人が住む月面の生活圏を目指すアイスペース
アイスペース(ispace)は「人類の生活圏を宇宙に広げる」ことをビジョンに掲げ、2040年までに1000人が滞在し、年間1万人が旅行に訪れるような月世界の実現を目指す。そのスケジュールについて、取締役兼COOの中村貴裕氏は、「2020年代は、地球から月への輸送を低コストで実現する輸送プラットフォームを構築し、月面からデータを大量に収集してデータのプラットフォームを作っていく。2030年代には、月にも存在すると見られている水資源のバリューチェーンを構築して利活用することで、月面での経済圏や生活圏の構築を目指す」と紹介した。
アイスペースでは低コストで定期的に運行できる輸送プラットフォームを構築するために、小型・軽量で機動力の高い惑星探査ローバーのほか、顧客が指定したタイミングで荷物を運ぶ着陸用ランダーを開発している。こうした製品の開発や、宇宙における産業開発、事業開発を推進するため、さまざまな企業とパートナーシップを組んでいる。
ローバーやランダーなどの設計・開発に関して、日本航空からはJALエンジニアリングの整備士から溶接などの組立作業の一部について技術支援を受け、シチズン時計からはスーパーチタニウムという独自の素材をランダーの着陸用の足に溶接している。ランダーの足の構造解析に関しては、スズキが自動車製造で培ってきた衝突衝撃の構造解析技術を応用している。さらに、日本特殊陶業と新たに月探査用の全固体電池を開発し、高砂熱学グループとは水の電解モジュールを開発した。こうした技術支援以外にも、三井住友海上は宇宙探査につきもののリスクを担保する保険を設計、住友商事グループは月面でサプライチェーンを構築する際に、商社機能としての意見やノウハウを注入しようとしている。そしてSMBCグループからは、月面で産業を作っていく上で必要になるファイナンスに関するアドバイスを受けるという。
「これまで宇宙開発に関わってこなかった大手企業から協力をいただきながら、まさに一から産業を構築することを目指していく」(中村COO)。
小型観測衛星の量産を目指すアクセルスペース
小型冷蔵庫ほどの大きさの100キログラム級超小型人工衛星の開発に力を入れる、アクセルスペースのビジョンは、「宇宙を普通の場所に」だ。これまで、ウェザーニュースなどの民間企業や福井県といった自治体からも依頼を受け、さまざまな用途の人工衛星9機を開発して打ち上げてきたが、代表取締役CEOの中村友哉氏は「現在、地球観測用小型衛星のコンステレーション構築を重点プロジェクトとしている」とプレゼンテーションで紹介した。
すでに、5機の小型観測衛星「グルース(GRUS)」を打ち上げており、2023年までに追加の5機を打ち上げて10機体制にする。10機体制が実現できれば、世界中どこでも1日1回撮影できるようになるという。「現状では、日々の変化を捉えていくことが重要だと思っている。まずは10機体制を実現し、利用者がどういう使い方をするかを見極め、さらに数を増やしていくのか検討したい」(中村CEO)。
精密農業や環境モニタリング、サプライチェーンの監視など、さまざまな用途での活用が期待されているグルースは、地上分解能2.5メートルで画像を撮影できる。撮影領域については、千葉から立川くらいまでの距離に当たる57キロメートルの範囲を一度に撮影できるという。
人工衛星の新しい活用法として、最近では報道業界でもアクセルスペースが撮影した衛星画像を活用しようとしている。「SNSなどのビッグデータから、報道価値の高い情報をAIで検知して報道機関などに配信する報道ベンチャーJX通信社は、アクセルスペースが提供する衛星画像をニュース速報の中で取り入れていこうとしている。これは新しい報道のモデルになる可能性もあると見ている」(中村CEO)。
2021年は一気に4機の人工衛星を製造したことで、量産に向けた課題が見えきたという。それらの課題を克服して量産体制を構築し、2024年頃には年産50機の実現を目指している。
目印はQRコード、スペースデブリ除去衛星を開発するアストロスケール
スペースデブリ除去をはじめとする軌道上サービスに取り組むアストロスケールは、利用されなくなった宇宙機を捕獲するためのドッキングプレートを開発。自動車の牽引フックのように標準化されたインタフェースを持つドッキングプレートは、打ち上げ時に衛星に装着される。その後、衛星が運用期間を終え必要なくなった際に、アストロスケールのスペースデブリ除去衛星がドッキングプレートのQRコードを目印にして機体を回収する捕獲サービスを提供しようとしている。
2021年から始めている実証実験では、スペースデブリ除去衛星は対象物を捕獲すると徐々に軌道離脱させながら大気圏に突入して焼却させたが、2024年からの運用を目指している商用化では、複数のスペースデブリを回収した後に大気圏に突入させるようになるという。
地球環境も配慮して有翼式宇宙船開発を目指すスペースウォーカー
スペースウォーカー(SPACE WALKER)が開発を目指すのは、再使用可能な弾道飛行スペースプレーン(有翼式宇宙船)だ。固体ロケットブースターや外部燃料タンクなど複雑なシステムを必要とせず、飛行機のように単体で宇宙空間に行き滑走路を使って帰還する。
エンジンはLNG(液化天然ガス)を燃料とするが、家畜の糞尿より取り出したバイオガスから液化バイオメタン(LBM)を製造する。また、宇宙機の軽量化に向けた取り組みの中で、宇宙だけでなく地球でも利用可能な複合材高圧タンクを開発するなど、環境に配慮した宇宙事業に取り組んでいる。
現在の計画では、2025年に科学実験を行う「風神(FuJin)」、2027年に小型衛星の軌道投入を行う「雷神(RaiJin)」、2030年に有人宇宙旅行を行う「長友(NagaTomo)」と、徐々に機体を大型化していく予定。
ロボット遠隔操作で宇宙旅行の体験を提供するアバターイン
ANA発のスタートアップであるアバターイン(avatarin)は、アバターロボットの遠隔操作技術を使った宇宙ビジネスの実現に向けて活動を始めている。国際宇宙ステーション(ISS)内にアバターインのコミュニケーションロボット「スペースアバター(space avatar)」を載せ、地上からアクセスすることで宇宙空間内を移動できる体験サービスを目指す。
すでにスペースアバターのプロトタイプはISSの日本実験棟「きぼう」に搭載されており、JAXA外の地上からの操作は2020年11月に成功している。今後は東京大学大学院工学系研究科の協力も得て、無重力空間のISS内を遠隔操作で自由に移動できるロボットを開発する計画だ。
2月21日15時55分更新:スペースウォーカーに関する記述を一部修正しました。