この数カ月間、イスラエル国内には衝撃が走っていた。10年以上にわたって世界各国の政府にハッキング・ツールを販売してきた10億ドル規模のイスラエル企業「NSOグループ」の一連のスキャンダルが公になり、これまで以上に厳しい監視の目が向けられている。同社は危機的状況にあり、その存続が危ぶまれている。
NSOグループの将来の不透明さが増す一方で、同社が先導して作り上げた監視ソフトウェア業界からツールやサービスを各国政府が購入する可能性はますます高まっている。「ハッキング屋」ビジネスは活況を呈し、監視ソフト業界は過去10年間で目新しい存在から、世界中の国々が権力争いに使う重要な道具へと成長を遂げた。NSOグループのような大手企業が仮に倒産することがあったとしても、業界の成長が鈍化することはないだろう。
2021年12月にはフェイスブック(メタ)が、世界各地のハッキング業者7社が、同社のプラットフォームを利用する約5万人を標的にしていたと報告した。このレポートでは、中国、インド、北マケドニアの企業とともに4社のイスラエル企業が取り上げられているが、NSOグループについては言及されていない。それだけ、監視業界とその標的が一般の人が想像する以上に広がっていることを示している。
NSOグループは長年、批判と不正の告発に悩まされてきた。2016年にはアラブ首長国連邦がNSOグループの「ペガサス(Pegasus)」を使用し、人権活動家アフマド・マンスールを標的にしていたことが発覚した。ペガサスはアイフォーンのソフトウェアの欠陥を利用し、攻撃者側で標的のアイフォーンを制御できるようにするツールだ。この件ではUAE政府が犯人と見なされ、NSOは無傷で済んだ(マンスールは同国の政権を批判した罪で今も刑務所にいる)。
このパターンは何年も繰り返し続いている。政府がNSOのハッキングツールを使って反体制派を攻撃したと告発されても、NSOは違法性を否定し、処罰を免れるというパターンだ。そして2021年半ば、欧米諸国の政府を相手に不正使用の疑いがあるとの新たな報道が流れた。同社は11月に米国から制裁を受け、12月には米国国務省職員がペガサスによるハッキングを受けたとロイターが報じた。
現在、NSOグループはフェイスブックとアップルから高額な公共訴訟を起こされている。負債や従業員の士気の低下、将来に対する根本的な脅威に対処しなければならない状況に追い込まれ、スパイウェアの申し子は突如として存在意義を …