気候変動の議論から取り残された人たちの「声なき声」を聞く
気候変動は欧米や専門家だけで話すべき問題ではない。気候科学は非常に重要だが、気候変動を身をもって経験している人たちの話でその科学を咀嚼することにより、私たちは技術的な解決策についてより創造的に考え始めることができるはずだ。 by Devi Lockwood2022.01.14
ストーリーテリングを気候変動の解決策と考えるのは奇妙に思えるかもしれない。だが、5年の歳月をかけて20カ国で気候変動に関する1001人の訴えを記録してから、私は気候変動への対処において最も有効な方法の1つが、すでに危機の影響を受けている人々の話にじっくりと耳を傾けることだと考えるようになった。その解決策が、実際に最も危険にさらされているコミュニティの手助けとなるようにするには、私たちはまず、そこにいる人たちの話を聞かなければならない。
- この記事はマガジン「脱炭素イノベーション」に収録されています。 マガジンの紹介
気候変動は環境正義の問題である。この問題によって最も被害を受けている人たちは、多くの場合、最も過失がない人たちである。すでに気候変動の影響を受けて生活している人たち(そのほとんどはグローバル・サウスに住んでいる)を無視した解決策によって、そもそもこの混乱を彼らにもたらすこととなった全体的な不平等が永続するリスクがある。
特に北米と欧州では、気候変動について多くのことが声高に議論されている。この結果、世界の他の地域がある種の沈黙に陥りやすくなる。また欧米人は、付け加えるべきことは何もなく、いわゆる「専門家」に任せておくべきと考えるようになる。しかし、私たち全員が気候変動について議論し、最も苦しんでいる人たちの声を詳しく伝える必要がある。
気候科学は非常に重要であるが、気候変動を身をもって経験している人たちの話でその科学を咀嚼することにより、私たちは技術的な解決策についてより創造的に考え始めることができる。
これは、COP26のような主要な国際会議だけでなく、日常的な会話でも必要だ。大きな影響力を持つ人たちがいて、何らかを決定する空間には、気候危機について直接話ができる人たちがいるべきである。ストーリーテリングは、気候変動について沈黙する人々に介入することであり、言葉と語りを介してつながりを生むという、大昔からある人間の技術を使って、何もしないことに対抗するきっかけとなる。それはしばしば、無力な声を影響力を持つ人たちに届かせる方法となる。
危機にある気候の影響をすでに経験している人たちの話を記録することによって、私はそういうことをやろうとしたのだ。
2013年当時、私はマラソン大会で爆弾事件が起きたボストンに住んでいた。ボストンの街は封鎖されたが、それが解除されたとき、私は外に出て歩き、空気を吸って、人の音を聞きたかった。誰もが残忍なわけではないことを再認識するために、私にはつながりが必要だった。ハッと閃いて、ブロッコリーの箱を切り取り、そこに油性マーカーで「ストーリー募集中」と書いた。
そして、そのダンボールのサインを首から下げた。大抵の人は見つめるだけだった。しかし、私に近寄ってくる人もいた。見知らぬ人たちの話を聞き始めると、止まらなくなった。
その夏、私は人々が共有せずにはいられない話をじっくり聞くという使命を帯びて、ミシシッピ川沿いを自転車で下った。例のサインを一緒に持っていった。ある話が頭から離れず、何カ月もそれについて考えずにはいられなかった。そしてその話の影響で、最終的に私は世界中を旅することになった。
ニューオーリンズから南に128キロメートルのところで57歳のフラニー・コネッティに出会ったのは、彼女のオフィスの前に自転車を止めて、タイヤの空気をチェックしようとしたときだ。彼女は午後の日差しを避けられるよう、私をオフィスの中に招き入れてくれた。フラニーはエビフライのランチを私に分けてくれた。そして食事をしながら、2012年のハリケーン・アイザックで、自宅や近所の家々が押し流された話をしてくれた。
そのような惨事にもかかわらず、フラニー夫妻は、嵐のわずか数カ月後に自分たちの土地に戻り、トレーラーハウスに住んだ。
「私たちは堤防を守るために戦います。ハリケーンが来るたびに、湿地帯のために戦います」とフラニーは話した。「他の場所に住むなんて想像もできません」。
32キロ先では、高潮で海水が道路を覆った場所を見ることができた。「Water on Road(道路冠水場所)」とオレンジ色の看板に書かれていた。地元の人たちは、冗談めかしてルイジアナ州道23号線の終点を「世界の終わり」と呼んでいる。自分が自転車で進んで …
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