すべてが計画通りに進めば、スペースXは来月、人類史上最大のロケットを打ち上げることになる。全長約120メートルの「スターシップ」という名のこのロケットは、米国航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士を月へと運ぶために作られている。しかし、スペースXの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスクには、さらに大きな野望がある。火星に人類を移住させるためにスターシップを利用したいと考えているのだ。
スターシップの有人宇宙飛行能力については、すでにいろいろなことが語られている。しかしこのロケットは、地球近隣の惑星や月について現在分かっていることに革命をもたらす可能性を秘めている。「スターシップは、これまでの太陽系探査の方法を完全に変えてしまうでしょう」と、パデュー大学の惑星科学者であるアリ・ブラムソン准教授はいう。「惑星科学は大きく発展することになります」。
スターシップが期待に応えるものなら、海王星や太陽系外縁部にある海王星最大の衛星へのミッションを実行したり、月や火星から大量の宇宙石を持ち帰ったり、さらには飛来する小惑星から地球を守るための革新的な方法を開発することが可能になるかもしれないと、すでに科学者の間で話題になっている。
スターシップは現在、テキサス州の「スターベース(Starbase)」という場所で建造中だ。「スーパー・ヘビー(Super Heavy)」という大型ブースターの上に巨大な宇宙船が乗っている。どちらも地球に着陸して再利用が可能なため、コストを抑えることができる。通常の低コストミッションでは、機体全体で100トン(22万ポンド)の重さの貨物と人を宇宙へと運べる。スターシップ内で使用可能なスペースは1000立方メートルもあり、解体すればエッフェル塔全体が入ってしまうほどに大きい。このことが科学者を興奮させているのだ。
「スターシップはもう、すごいですよ」。ブラウン大学の惑星科学者であるジェイムズ・ヘッド特別教授は言う。
11月中旬、全米アカデミーズ主催のスターシップに関する公開バーチャル会議で、スペースXのマスクCEOはこのプロジェクトの科学的可能性について語った。「一刻も早く私たちが『多惑星種』になろうとすることが非常に重要なのです」と、マスクCEOは述べた。「その過程で、私たちは宇宙の本質について多くのことを学ぶことになります」。マスクCEOによると、スターシップは「大量の科学装置」を搭載して飛行できる。現在搭載可能な数よりもはるかに多くだ。「現在のように、限られた科学装置しか搭載していない小型の機体を宇宙に飛ばすのと比べれば、私たちは非常に多くのことを学べるでしょう」(マスクCEO)。
「100トンの物体をエウロパ(木星の第2衛星)の表面に届けられるかもしれません」。マスクCEOは述べた。
安価で再利用可能
このようなアイデアの中核にあるのは、スターシップが単に大きく作られているだけではなく、安価で打ち上げられる設計になっているという事実だ。一般にロケット打ち上げの費用は数千万ドルから数億ドルかかるため、NASAやESA(European Space Agency)のような機関は、資金を提供する少数のミッションを慎重に選ばなくてはならない。一方、スターシップは低コストで打ち上げ可能であるため、より多くのミッションに門戸を開ける可能性がある。1回の打ち上げにつき200万ドルという低価格で飛行できることを受け、「この低コストで実現できれば、科学研究の流れを大きく変える可能性があります」と、カリフォルニア大学バークレー校の物理学講師であるアンドリュー・ウェストファルはいう。「民間資金によるミッションや、一般の人々が集ってロケットを打ち上げるのを想像するといいでしょう」。
さらにスターシップには、遅れに遅れているNASAのスペース・ローンチ・システム(Space Launch System)やブルーオリジンのニュー・グレン・ロケット(New Glenn)といった開発中の他の超重量級ロケットに比べ、大きな利点がある。スターシップの上半分は、他のスターシップから地球の軌道上で燃料を補給できる設計になっているため、より多くの揚 …