KADOKAWA Technology Review
×
欧州で新型コロナの感染が爆発的に拡大、今なぜ?
Alexander Pohl/Sipa USA via AP Images
What Europe’s new covid surge means—and what it doesn’t

欧州で新型コロナの感染が爆発的に拡大、今なぜ?

欧州での新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない。現在、世界全体の感染者数の半分以上を欧州が占めており、2020年4月以降で最大の割合となっている。いったい、何が起こっているのだろうか。 by Bobbie Johnson2021.11.16

ドイツにおける新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染者数が、パンデミックが始まって以来の最高レベルに達している。ドイツ国内では感染の「劇的な拡大」について警鐘が鳴らされ、「すばやい統一的な対応」が求められている。またオランダでは、感染抑制のための部分的な制限が課されている。店舗や飲食店の営業時間は午後8時までとされ、プロスポーツは無観客での開催が定められた。一方、オーストリアでも厳格なロックダウンが課されたばかりだ。だが、その対象はワクチン未接種の人々に限られている。

欧州の多くの国が同じような状況にある。ロイターの報道によると、現在、世界全体の感染者数の半分以上を欧州が占めており、2020年4月以降で最大の割合となっている。人口400万のクロアチアでは、春の感染拡大期よりも症例や死者数が増えている。1日平均で55人という死者数は1年前の同じ時期より多く、そうした状況がヨーロッパ大陸の多くの場所で見られる。一体何が起こっているのだろうか?

「寒い季節の到来とワクチン接種率の低さが2大要因です」。スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のマルセル・サラテ准教授(デジタル疫学)はそう語る。「前者は対処できませんが、後者は対処できます」。

 

感染拡大の要因として、専門家はさまざまな可能性を指摘している。1つはウイルスそのものに起因しており、感染力が強く、広がる速度も速い新型コロナウイルスのデルタ株が拡大を続けていることにある。デルタ株はインドで2020年後半に初めて確認された変異種だ。つまり、多くの国はデルタ株が優勢種となってから初めての冬を迎えているのだ。

同時に、感染抑制策の多くが緩和されていることが挙げられる。人々は社会的距離をとったり、マスクを着用したりすることをやめ、パンデミック前の生活に少しでも近づこうとしている。オーストリアは最近、ワクチン未接種者が飲食店やカフェ、それにスキー場に入ることを禁止したが、新たなロックダウンははるかに厳しい内容となっている。

英国の疫学者ティム・スペクター教授(キングス・カレッジ・ロンドン )は11月第2週の王立医学協会(Royal Society of Medicine)への説明において、「ワクチンだけでは、英国のような高い接種率を誇る国であっても最終的な解決策にはなりません」と述べた。

キングス・カレッジ・ロンドンで新型コロナ追跡アプリ「ZOE」の調査を実施しているスペクター教授は、「複数の対策を組み合わせる必要があります」と語った。さらに「感染拡大をどこまで許すかは、私たちの気の緩みとルールの緩和によって決まります。昨年は行き過ぎていると感じていましたが、今年は足りないと感じています」と続けた。

そうは言っても、例えばクロアチアとイタリアの感染状況の差を説明する際、ワクチン接種率が一番重要な要素であることは間違いない。

東欧では隣国よりも接種率が低い国が多い。例えばクロアチアの完全接種率は46%で、スロバキアは43%である(欧州の平均は56%)。オーストリアのアレクサンダー・シャレンベルク首相は、新たなロックダウンを宣言する中で「未接種の人々が感染数を増やしている」と語った。「未接種の人の(1日の感染)数が1700を超えているのに対し、接種済みの人では383です」 。

ワクチン接種率が高い国では、感染が拡大していても症状は軽く、死者数も少ない。例えば、英国では13歳以上の国民の80%が2回の接種を済ませている。

 

「感染を一番抑制できている国は、接種率が高く、効果的な対策をとっている国です」と、スイス連邦工科大学のサラテ准教授は言う。「どちらもできていない国は最悪の感染状況にあります。大部分の国はその中間といったところです」。

だがワクチン接種率が高く、症例数がそれほど逼迫していない国でも、長期的な予防という面では十分でない可能性がある。特に、ワクチンの効果が時間とともに薄れていくとなればなおさらだ。

「英国は他国に先駆けて接種を始めたため、免疫減退の影響についても早期に経験しています」。サウサンプトン大学のマイケル・ヘッド上級研究員(グローバルヘルス)は言う。「我が国では、ブースター接種によって、高齢者の入院患者数や新規感染数に明らかな影響が出ています」。

要するに、ワクチン接種を続け、早期に接種した人々の免疫反応を上げることが引き続き非常に重要だということだ。

ヘッド研究員はこう語る。「制御不能な感染爆発が起きている一方で、懸念される変異株(VOC:Variants Of Concern)や注目すべき変異株(VOI:Variants Of Interest)も新たに見つかっています。新たな変異種が優勢となったり、ワクチンの効果に大きな影響を与えたりする事態は絶対に避けたいのです。結局のところ、世界の大部分に接種が行き届かない限り、完全に安心することはできません。接種へのためらいとワクチンが利用できない状況の組み合わせは、すべての人に影響するのです」。

人気の記事ランキング
  1. The winners of Innovators under 35 Japan 2024 have been announced MITTRが選ぶ、 日本発U35イノベーター 2024年版
  2. Kids are learning how to make their own little language models 作って学ぶ生成AIモデルの仕組み、MITが子ども向け新アプリ
  3. The race to find new materials with AI needs more data. Meta is giving massive amounts away for free. メタ、材料科学向けの最大規模のデータセットとAIモデルを無償公開
ボビー・ジョンソン [Bobbie Johnson]米国版 上級編集者
サンフランシスコを拠点に、主に特集と紙の雑誌の編集を担当しています。前職は、数々の受賞歴があるオンライン・マガジン「マター(Matter)」の共同創設者。ガーディアン紙ではテクノロジー記者と編集者を務めていました。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る