決定論から確率論へ、AIがもたらしたコンピューティングの大変革
世界的なコンピューター科学者であるジャネット・ウィングは、人工知能(AI)の出現によって、データにより注視しなければならなくなったと語る。コンピューティングの世界が決定論から確率論に移り、従来のコンピューター科学者に大きな変化が訪れている。 by Anil Ananthaswamy2021.11.02
世界的なデータ科学(データサイエンス)の専門家の一人は、「データへの注視」による問題解決をそろそろ始める時期に来ている、と言う。
- この記事はマガジン「量子時代のコンピューティング」に収録されています。 マガジンの紹介
2006年、当時カーネギーメロン大学コンピューター科学部の学部長だったジャネット・ウィングは、各方面に大きな影響を与えた『Computational Thinking(計算論的思考)』というエッセーを発表した。コンピューター科学で用いる概念的ツールを使うことで、人類のあらゆる取り組みに関わる全ての人々が利益を受けられると主張するものだった。
ウィングはカーネギーメロン大学の後、マイクロソフト・リサーチの上級副社長を経て、現在はコロンビア大学の研究担当副学長を務めており、さまざまな分野でデータ科学を推進するリーダーである。
ウィング副学長自身は、もともとコンピューター科学を勉強する気は全くなかった。彼女は、電子工学分野の教授であった父の影響を受け、同じ道に進もうと考えた。そして1970年代半ばに、マサチューセッツ工科大学(MIT)に入学した。ところがある時、彼女はコンピューター科学に興味を持つようになる。父に電話をし、その分野自体が一時的な流行に過ぎないかどうか尋ねた。当時コンピューター科学分野は新しすぎて、教科書すら存在していなかったのだ。父は、コンピューター科学は単なる流行ではないと伝えた。そこでウィングは専攻を変え、コンピューター科学一筋でこれまで進んできた。
この記事では、科学ジャーナリストのアニル・アナンサスワミー が、ウィング副学長に「信頼できる人工知能(AI)」を推進するという野心的な課題について質問している。信頼できるAIとは、より公平で偏見のないAIシステムを作る試みの実現に向けてウィング副学長が定めた10の研究課題のうちの一つだ。
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——コンピューティングの方法に変革が起こっているのでしょうか?
もちろんそうです。ムーアの法則によって我々は素晴らしい進歩を遂げました。とはいえ、ムーアの法則には上限があることが分かっていたため、並列コンピューティングが脚光を浴びるようになりました。ですが、クラウド・コンピューティングによって、それよりもはるかに大きな地殻変動が起こりました。初期の分散ファイルシステムは、クラウド・コンピューティングの揺籃期ようらんきと言えるもので、ファイルはローカルのコンピューターではなく、どこかのサーバー上に存在していました。クラウド・コンピューティングはこの状況をさらに先に進 …
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