サプライチェーン崩壊、
アマゾン、グーグルを救う
AI「デジタルツイン」技術
この2年間に及ぶパンデミックで、あらゆる企業のサプライチェーンは壊滅的な打撃を受けた。アマゾンやグーグルは、AIを使った「デジタルツイン」による新世代のシミュレーションで問題を乗り越えようとしている。 by Will Douglas Heaven2021.11.01
この2年間に起こったサプライチェーンの混乱は、すぐには収まる兆しがない。企業は期日通りに商品やサービスを顧客に提供するべく、「デジタルツイン」と呼ばれる、人工知能(AI)を使った新世代のシミュレーションに目を向けている。デジタルツインは、将来の混乱を予測するだけでなく、その対処法も提案してくれる。ジャスト・イン・タイム配送が崩壊したことで苦境に立たされた企業は、死活問題となる効率と回復力のバランスを探るべく、デジタルツインを活用している。
ここ数カ月間で入手が困難となった商品は山ほどある。新発売の自動車や携帯電話から、コンタクトレンズ、洗浄剤、生鮮食品、ガーデン用家具、書籍、さらには青色塗料の原料まで、在庫が充実している商品と同じぐらい多種多様だ。「2020年3月にトイレットペーパー不足に陥ったときとは異なります」と話すのは、物流問題にAIを使って対応する企業、パスマインド(Pathmind)のクリス・ニコルソン創業者兼CEO(最高経営責任者)である。「現在欠乏している商品は、より個人的なものが多いようです」。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、インターネットから国際航空旅行まで、世界のネットワークの多くに打撃を与えた。一般消費者が購入するほぼすべてのものは、工場や港、倉庫をつなぐ船やトラック、鉄道によって、製造場所から数千キロも運ばれてくる。世界中を縦横無尽に走るこれらのサプライチェーンは、かつてない危機に直面している。
「商品が何であれ、売り手はいま例外なく問題を抱えていると言っても過言ではありません」。アマゾンのトップセラーに助言するコンサルティング会社、アベニューセブンメディア(Avenue7Media)のジェイソン・ボイス創業者兼CEOは話す。ボイスCEOのクライアント企業の中には、在庫の欠品さえなければ年間数千万ドルを売り上げる企業もある。「私たちは、泣き言を漏らすしかないクライアント企業と、毎日のように会話をしています」とボイスCEOは話す。「この数カ月間というもの、30日連続で在庫を切らさず揃えている企業はありませんでした」。
デジタルツインを利用すれば、サプライチェーンの破綻が発生する前にそれを予測し、AIを利用して回避策を見つけることができる。「デジタルツイン」という名前は、コンピューターの中に複雑なシステムを再現し、現実世界の対象(貿易港や商品など)とそれが含まれるプロセスをミラーリングして、一種のツイン(双子)を作成するというアイデアに由来している。シミュレーション自体は、以前から産業界の意思決定の一端を担っており、さまざまな製品設計の検討や、倉庫レイアウトの合理化などに活用されてきた。だが、膨大なリアルタイム・データやコンピューティング能力が利用可能になったことで、多数のベンダーや輸送ネットワークに依存するグローバル・サプライチェーンの混乱をはじめとする、より複雑なプロセスを初めてシミュレーションできるようになったのだ。
自社のトラックや倉庫を管理できる強みを以前から有していたアマゾンは、ここ数年のシミュレーション・テクノロジーの進歩によって、さらなる優位性を得た。現在では恩恵を受ける企業は増えつつある。フランスの自動車メーカー・ルノーは9月、グーグルが開発したサプライチェーンのデジタルツインの採用を発表した。フェデックスやDHLのような国際的な大手運送企業は、独自のシミュレーション・ソフトウェアを構築している。さらにパスマインドのようなAI企業は、さまざまな企業から対価を得て特注のツールを作成している。だが、すべての企業がデジタルツインの恩恵を受けられるわけではない。実際のところ、この新しい強力なテクノロジーは、世界経済における情報格差の拡大を助長する可能性がある。
嵐を乗り越える
現在のサプライチェーンの問題をパンデミックのせいにするのは簡単だ。パンデミックによる工場の閉鎖と労働力不足が生産・配送拠点に大打撃を与えたと同時に、オンライン・ショッピングと快適な購入体験の急増で、宅配の需要が大幅に増加したからだ。
しかし、実際のところは、パンデミックは悪い状況をさらに悪化させたにすぎない。「状況の悪化を加速させている世界的な要因が複数あり、すべてが結合して嵐が巻き起こっています」。そう語るのは、サプライチェーンに対するパンデミックの影響を研究しているユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの経済学者、デマリス・コフマン教授だ。
この嵐を鎮 …
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