ブタの腎臓のヒトへの移植に成功 遺伝子操作で拒絶反応抑える
遺伝子操作したブタの腎臓を、脳死状態の患者に移植する手術が成功した。実用化にはまだ課題が残るが、臓器移植を待つ人々を将来的に救える可能性がある。 by Charlotte Jee2021.10.21
ブタの腎臓をヒトの体に移植する手術が成功し、正常に機能することが確認された。AP通信が10月20日付で伝えた。移植に使われたブタは拒絶反応が出にくいように遺伝子操作されたもので、動物の臓器をヒトに移植する手法を確立し、移植待ちの期間を短縮する研究は、大きな節目を迎えた可能性がある。
ニューヨーク大学(NYU)ランゴーン・ヘルスの外科チームは、脳死状態の患者の体外で血管をブタの腎臓につなぎ、2日間にわたって経過を観察した。この女性患者の家族は、生命維持装置を取り外す前に実験に協力することに同意したとAP通信は伝えている。腎臓は正常に機能し、老廃物を濾過して尿をつくった。経過観察は短期間だったものの、拒絶反応の兆候はみられなかった。
研究は今年9月に実施されたもので、まだ学術誌への掲載や査読の段階にはない。ただ、外部の専門家は大きな進歩だと評している。「非常に重要な一歩であることに疑問の余地はありません」と、英国ケント大学の遺伝学者であるダレン・K・グリフィン教授は話し、次のように付け加えた。「研究チームは、脳死患者を対象として、腎臓を体外で接続し、限られた時間だけ経過を観察するという慎重な姿勢をとりました。したがってまだ実用化までの道程は長く、多くの発見すべきことが待っているでしょう」。
ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授で移植手術が専門のドリー・セゲフは、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に「大きな進歩です。本当に、画期的なことです」とコメントしている(セゲフ教授は今回の研究には参加していない)。ただし、「臓器の寿命についてはさらに調べる必要があります」。
近年、臓器不足を解消するためのもっとも有望な選択肢として、ブタからの異種間移植の研究が進められてきた。しかし、そこには多くの壁がある。最大の障害は、ブタの細胞に含まれる糖が、ヒトに激しい拒絶反応を起こさせることだった。
研究チームはこれを回避するため、ドナーのブタの遺伝子を操作し、拒絶反応を引き起こす糖分子をコードする遺伝子を欠損させた。ブタの遺伝子操作を手掛けたのは、ヒトへの移植に向けたブタ臓器の開発に取り組むバイオテクノロジー企業の1社である、レヴァイヴィコア(Revivicor)だ。
移植用の腎臓のニーズは切迫している。全米腎臓財団によれば、米国では現在10万人以上が腎臓移植を待っており、毎日13人が亡くなっている。NYUランゴーンのチームが実験した方法が長期的に機能するようになれば、遺伝子操作されたブタは腎臓移植を待っている人々にとって福音となるだろう。
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- シャーロット・ジー [Charlotte Jee]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」を担当。政治、行政、テクノロジー分野での記者経験、テックワールド(Techworld)の編集者を経て、MITテクノロジーレビューへ。 記者活動以外に、テック系イベントにおける多様性を支援するベンチャー企業「ジェネオ(Jeneo)」の経営、定期的な講演やBBCへの出演などの活動も行なっている。