テスラの自動運転テクノロジーの作動中に発生した死亡事故は、自動運転の将来に重要な影響を及ぼしかねない。
米国国家道路交通安全局(NHTSA)は30日、事故を調査中であると発表した。5月にフロリダ州ウィリストン近郊で発生した事故では、走行中のモデルSが、前方を左折するトレーラーに激突した。
NHTSAが調査したからといって、自動運転テクノロジーが事故の一因であり、テクノロジーに欠陥があったことは意味しない。しかし、自動自動が関わる初の死亡事故は、必然的に自動運転テクノロジーの性能や、テクノロジーをドライバーがどう扱うかについて疑問を投げかける。自動車業界は、事故によって法令にどう整備されるか、自動運転テクノロジーについて社会全体がどう反応するか、確実に注意深く見守っている。NHTSAは7月中に、自動運転車の試験に関する新しいガイドラインを発表する予定だ。
テスラの「オートパイロット」は、カメラ、レーダー、超音波センサーなど、必要なハードウェアを搭載したモデルSで利用できる追加機能だ。自動運転は、高速道路でずっと走り続け、カーブを曲がったり、他の車に合わせて減速させ、追い越りもできる。テスラは声明で、事故発生時、白のトレーラーが明るい空に反射し、「オートパイロット」機能が認識できなかったと述べた。
テクノロジーの専門家は、自動運転システムは完璧とはいえず、自動車の制御をドライバーに戻すことを条件に実用化したことには問題がある、と何度も警告してきた(“Driverless Cars Are Farther Away Than You Think”参照)。
テスラや他の自動車メーカーに画像処理ソフトウェアを提供しているイスラエル企業モービルアイのダン・ガルヴェスCCOは、モービルアイのテクノロジーは現在調査中の事故の原因になったと思われるタイプの障害に対処できるようには設計されていないと発言した。
「現在の衝突防止テクノロジー、あるいは自動緊急ブレーキ(AEB)は、特に追突の回避目的で設計されており、今回の事故のように、横方向に自動車が横断する場合には対応していません」
自動運転用のテクノロジーを含む自動車部品を数多く生産するドイツ企業ボッシュは、自動化の利点はテクノロジーが必然的に進歩することだとしている。
「自動運転車の段階的な導入により、交通安全に大きく寄与できると引き続き確信しています。自動運転は一夜にしてではなく、段階的にやって来ます」(同社声明より)
NHTSAの調査結果は、テスラにより深刻な影響を与えうる。一般的に、安全に関わる問題は、自動車メーカーに大きなダメージを与える。アウディは1980年代に何台かの車が「突然加速する」問題で失った評判を取り戻すのに10年以上かかった。テスラには最新のテクノロジーを積極的に導入するブランドとして位置づけられており、テスラの顧客の多くは、自動車で起きるイノベーションの最先端を体験することに熱狂している。今回の問題がソフトウェアに起因するとしても、携帯電話網を使ったデータリンクで、自動車のソフトウェアを更新し、問題を修復できるようになっている。
テスラは声明で、走行距離延べ約2.1億キロメートル以上の自動運転で今回が初めての死亡事故であり、人間の運転では約1.5億キロメートルに1人の割合で死亡事故が発生している、と指摘した。この比較は精緻とはいえないが、テスラは自動運転による高速道路走行はあくまでも一定の条件下で可能としており、NHTSAが自動運転機能が故障していたと判断すれば、事故の原因は自動運転の設計問題であり、自動運転そのものが原因であるとは証明されないかもしれない。
マサチューセッツ工科大学スローン経営学大学院で自動車産業を研究するデーヴィッド・キース助教授は事故を以下のように見ている。
「この事故は、自律運転車が乗り越えなければならないテクノロジーと社会的な課題を悲劇的な形で明らかにしてしまいました。あらゆる状況下で、自動車を安全に制御することは非常に複雑な動作であり、アルゴリズムだけではまだ対処できないのです」
モデルSのドライバーが事故当時何をしていたのかは不明だ。しかし、グーグルの自動車プロジェクトが示しているように、 自動化はドライバーの危険行動を促進してしまう。(“Lazy Humans Shaped Google’s New Autonomous Car”参照)。
「NHTSAは、これまで自律運転車に関して手放し状態でした。今回の事故により、半自律走行の安全性に関して、当局が監督を強めることは大いにあり得ます」(キース助教授)