コロナ禍で「爆売れ」中国ハイテク機器の影に監視国家の非道行為
少数民族に対するハイテクを使った人権侵害が中国で横行している。米国が新型コロナ対策に購入している熱感知カメラや顔認識システムは、こうした行為に加担する企業によって開発・訓練されたものであることを忘れてはならない。 by Darren Byler2021.10.27
2019年半ばのある日、中国クイトゥン市の人で賑わう市場の交差点を歩いていたワシントン大学の若い学生が、警察官に肩を叩かれた。その学生、ヴェラ・チョウはイヤホンで音楽を聴き、人混みをかき分けながら歩いていたため、最初は肩を叩かれたことに気づかなかった。振り返ると黒い制服が目に入ってきた。顔から血の気が引いた。警察官はヴェラの母国語の中国語で話しながら、近くにある人民コンビニエンス交番にヴェラを連れて行った。この地域に設けられた7700以上の監視拠点の1つだ。
灰色の箱形の建物に設置されたモニターには、黄色の枠で囲まれたヴェラの顔が映っていた。他の画面には、市場内を歩く人々が映し出されており、その人々の顔は緑色の枠で囲まれている。高精細で写し出されたヴェラの顔の横には、個人情報が表示されており、ヴェラが中国北西部の人口1500万人のうち約100万人を占める中国のイスラム教徒グループ「回族」だと書かれていた。警報が鳴ったのは、ヴェラが行動制限エリアを越えていたことを、地域にはりめぐらされた警察網が感知したからだ。
ヴェラは以前、再教育収容所にいたため、自警団と公安局の両方から許可をとらなければ、公式に街に出ることは許されていない。画面上のヴェラの顔を囲む黄色い枠は、イスラム教徒を拘束するデジタル収容システムによって、ヴェラが再び「犯罪者予備軍」とみなされたことを示していた。そのとき生きた心地がしなかった、とヴェラは語る。
クイトゥン市は、中国とカザフスタンとの国境沿いにある新疆ウイグル自治区のタルバガタイ地区にある人口約28万5000人の小都市だ。私が講師を務めていたワシントン大学で地理学を専攻していたヴェラは、3年生の時の2017年、ボーイフレンドに会おうと衝動的に帰省し、そのときからそこに足止めされていた。首都ウルムチの映画館で一夜を過ごした翌日、警察署に来るようにとボーイフレンドに電話がかかってきた。出頭すると、質問しなければならないのは、インターネット利用状況に不審な点のあるヴェラの方だという。ヴェラは、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)を使って、大学のGメール・アカウントなどの「違法サイト」にアクセスしていたのだ。後にヴェラは、この行動が「宗教的過激派の兆候」だと聞かされた。
ヴェラが事態を理解するには時間がかかった。ヴェラのボーイフレンドは中国では多数派の漢民族でイスラム教徒でもなかったため、警察はおそらく彼に騒ぎを起こしてほしくなかったのだろう。最初のうちは今後のプロセスについての警察の説明はかなり遠回しで、ヴェラはただ署内で待っているようにと言われただけだった。
逮捕されたのかと尋ねても、警察は答えようとしなかった。
「そこに座っていなさい」。ただそれだけだった。おびえたヴェラは、故郷の父親に電話して事情を話した。やがて、警察の車が警察署に到着し、ヴェラは後部座席に乗せられた。ボーイフレンドが見えなくなると、警察はヴェラの両手を後ろ手にしっかりと縛り、後部座席に乱暴に押し込んだ。
犯罪者予備軍
ヴェラ・チョウは、対テロ戦争は自分とは関係ないと思っていた。自分は、大きなイヤリングと黒い服が好きなファンション好きの、宗教とは無関係な女の子としか思っていなかった。オレゴン州のポートランド近郊の高校に通い、都市設計家を目指して米国の一流大学で学んでいたところだった。卒業後は、ボーイフレンドと再会し、景気の良い中国でキャリアを積むつもりだった。ヴェラは、2017年初めに自分の故郷や新疆ウイグル自治区全体で新しいサイバーセキュリティ法が施行され、国家当局が呼ぶところの過激派「犯罪者予備軍」が身元を特定され、拘束されていることを全く知らなかった。ヴェラは、新しく就任した自治区主席が、「人民戦争」の一環として、「逮捕すべき者を一網打尽にせよ」という指令を出していたことも知らなかった。
押し込まれた後部座席で恐怖の波に襲われたヴェラは、自分を抑えられなくなり叫んだ。涙が止まらない。「どうしてこんなことをするの? 国は無罪の人を守ってはくれないの?」ヴェラには、これはホラー映画の中の残酷な冗談ではないかと思えた。正しい答えさえ言えれば、警察は正気に戻り、すべてが間違いだと気づくのではないかと思ったのだ。
ヴェラは、その後、数カ月間にわたって他の11人の少数派イスラム教徒の女性とともに、クイトゥン郊外にある元警察署の2階の独房に収容された。この部屋に収容されていた他の女性たちも、ヴェラと同様、サイバー「犯罪予備軍」だった。あるカザフスタン人女性は、カザフスタンのビジネスパートナーと連絡を取るために、自分の携帯電話にワッツアップ(WhatsApp)をインストールしていた。市場でスマートフォンを売っていたウイグル人女性は、自分の身分証明書を使って複数の客にSIMカードを登録させていた。
2018年4月にヴェラは、他の数名の収容者たちと共に何の前触れもなく釈放された。ただし、地元の社会安定相談員に定期的に報告し、自宅近辺からは出ないという条件付きだ。
毎週月曜日になると、保護観察官は、近所で実施される国旗掲揚式への参加や、中国の国歌を大声で歌うこと、中国政府への忠誠を誓う発言をすることをヴェラに求めた。この頃には、この小さな町で多くの人がサイバー犯罪で拘束されたと盛んに報道されており、新しく設置された自動インターネット監視システムによって、ネット上での行動が検知される可能性があることがわかっていた。他の人と同様、ヴェラもネット上での行動を改めた。ヴェラを担当する社会安定相談員がソーシャルメディアで何かをシェアすると、ヴェラはいつも真っ先に「いいね!」を押し、自分のアカウントに投稿するなどしてサポートした。ヴェラは、知り合いの誰もがそうだったように、国家のイデオロギーを積極的に宣伝することで、「ポジティブなエネルギーを広める」ようになった。
自宅近くに戻った後、ヴェラは自分が変わってしまったことに気づいた。収容所で見た数百 …
- 人気の記事ランキング
-
- These AI Minecraft characters did weirdly human stuff all on their own マイクラ内に「AI文明」、 1000体のエージェントが 仕事、宗教、税制まで作った
- Google’s new Project Astra could be generative AI’s killer app 世界を驚かせたグーグルの「アストラ」、生成AIのキラーアプリとなるか
- Bringing the lofty ideas of pure math down to earth 崇高な理念を現実へ、 物理学者が学び直して感じた 「数学」を学ぶ意義
- We saw a demo of the new AI system powering Anduril’s vision for war オープンAIと手を組んだ 防衛スタートアップが目指す 「戦争のアップデート」