動き出した米国初の大規模な気候関連法案、その成果と課題は?
米国のバイデン大統領は気候変動問題を自身の政治活動の中心に据え、米国初の大掛かりな気候関連法案を成立させようとしている。その画期性と課題を識者らが語った。 by James Temple2021.10.11
再生可能エネルギーのコストの急激な低下、成長を続けるクリーンエネルギー産業、そして広がりつつある活動家らの影響力が、米国における気候変動対策に関する政治を動かし始めた——。9月28日から30日にかけてオンラインで開催されたMITテクノロジーレビュー[米国版]の年次カンファレンス「EmTech(エムテック)」に登壇したパネリストらはこう語った。
環境保護団体「350.org」の創設者で、気候問題に関する書籍の著書を持つビル・マッキベンは、9月30日の「電力産業をクリーンにする」と題するパネル・ディスカッションで、これら3つの要因により、ジョー・バイデン大統領は気候変動を自身の政治活動の中心に据えることができたと主張。米国議会で議論されているインフラ法案に含まれるクリーンエネルギー政策や資金調達手段のポートフォリオに勢いをつけることができたと話した。
法案が現在の形に近い状態で可決されれば、米国初の大掛かりな気候関連法となる。最も注目すべきは、「クリーン電力パフォーマンス・プログラム(CEPP)」が含まれている点だ。このプログラムは、報酬と罰金を利用し、電力会社に対して、炭素を含まないエネルギー源から生成する電力の割合を高めるよう推奨する(本誌でも以前説明している)。
パネリストらは討論会の中で、2030年までに米国で供給される電力の80%をクリーンエネルギー由来にするよう設計されたこの法案は、多くの経済学者に支持されている「炭素税」といった競合的な手法より効果的かつ政治的にも実現しやすいと主張した。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校でエネルギーと気候政策を研究するリア・ストークス准教授は、「人々に『ある必需品を使う際の料金を、もっと高く設定します。その必需品とはエネルギーのことです』と言うとしたらどうでしょう? そんな政策には人気も出ないでしょう」と発言。「この考えは、米国の所得格差という現実と真っ向からぶつかっています」と述べた。
「『化石燃料の使用料を上げるのではなく、クリーンエネルギーの使用料を下げようではありませんか』という別のパラダイムを唱えるべきです」(ストークス准教授)。
しかし、今回のクリーンエネルギー法案や他の気候関連規定が実際に通過するのか、通過するとしてもどのような形になるのかはまだわからない。共和党と民主党の勢力が拮抗している連邦議会では、一部の民主党上院議員ですら、過度な支出だとして法案の一部に反対している。
気候問題が深刻になっているにもかかわらず、潤沢な資金を持つ政治的影響力の強い電力・化石燃料利権が、必要な速度と規模でエネルギー・システムを徹底的に見直そうとする取り組みを妨げ続けている。こう主張したのは、シンクタンク「データ・フォー・プログレス(Data for Progress)」の政策・戦略担当副社長であるジュリアン・ブレイブ・ノイズキャットだ。ノイズキャット副社長は今回、エムテックの討論会のモデレーターを務めた。
「こうした利権は驚くほど強固で、一般市民による強い反対にも関わらず、依然として居座り続けています」(ノイズキャット副社長)。
議員らによって、重要な気候関連法案の条項が弱められれば、米国のクリーンエネルギーへの転換が遅くなり、11月初旬に開催される国連の気候会議に出席するバイデン政権の気候変動担当特使ジョン・ケリーの交渉力を減じることにもなるだろう。米国が今回の積極的な気候関連法が成立できなければ、「他の国々の意気込みにも制限がかかるのは必至です」と350.orgのマッキベン創設者は語った。
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- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。