大規模障害が世界に知らしめた、フェイスブックの影響力
米国時間の10月4日、フェイスブックの全サービスが6時間以上にわたって利用できなかった。これは、フェイスブックがインターネットと同義語になっている世界の多くの人々にとってまさに「巨大インフラの崩壊」と同等の事態だった。 by Patrick Howell O'Neill2021.10.06
リトアニアのフォト・ジャーナリストであるヴァイバ・ベザンが中央ヨーロッパ時間10月4日夕方にフェイスブック・メッセンジャー(Facebook Messenger)で送った最後のメッセージの一つは、続きが気になるような内容のものだった。また、それは非常に緊急性の高いものでもあった。
ベザンは、アフガン・サポート・グループ(Afghan Support Group)の共同主催者だ。同グループはタリバンによる占領を受け、立場の弱いアフガニスタン人たちの避難を何としてでも実現させようと動いている多くのボランティア・グループの一つ。そのベザンがフェイスブック・メッセンジャーに書いていたのは、国内に残っていたボランティア手配による数少ない避難便の搭乗名簿に避難者を追加できるかどうか尋ねるものだった。
だが、フェイスブックのWebサイト(Facebook.com)、ワッツアップ(Whatsapp)、メッセンジャー(Messenger)、インスタグラム(Instagram)といったフェイスブックの全サービスが、米国東部標準時10月4日午前11時40分頃から突然利用できなくなったことで、この重要な質問に対する答えは数時間、返ってこなかった。今回の接続障害は、フェイスブックのバックボーン・ルーターに変更を加えたことに原因があったと同社はブログの投稿で説明している。この変更により、インターネット全体のトラフィックを管理し、アドレスを追跡するツールであるドメインネームシステム(DNS)が、トラフィックを適切に管理できなくなっていた。合計すると、フェイスブックの一連のアプリおよびサイトは約6時間にわたって停止していた。
米国の多くのインターネット・ユーザーにとって、今回の接続障害は小さな迷惑沙汰に過ぎないかもしれない。しかし、ベザンのような活動家を含め、インターネットへのアクセスをフェイスブック製品に依存している世界中の数百万人の人々にとっては、今回の突然の接続障害ははるかに深刻なものだったはずだ。
接続経路を匿名化するブラウザである「トーア(Tor)」や暗号化メッセージサービス「シグナル(Signal)」といったテクノロジー・プロジェクトを支援している米国の非営利団体「オープン・テクノロジー・ファンド(Open Technology Fund)」のセキュリティ担当副社長であるサラ・アウンによると、世界の大半にとってフェイスブックは「インターネットの同義語」になっているという。つまり今回の接続障害は、まさしく「巨大インフラの崩壊」と同等の事態だったと言う。
さらに今回の接続障害は、フェイスブックにとって不運な時期に重なった。10月3日、接続障害が起きるわずか数時間前に、CBSのテレビ番組「60ミニッツ(60 Minutes)」で、フェイスブックの内部告発者フランシス・ハウゲンのお待ちかねのインタビューが放映されたのである。ハウゲンは、フェイスブックが自社のプロダクトは10代の少女たちにとって有害なものであると知っていたことを示唆する内容をはじめ、さまざまな内情を暴露する大量の内部文書を流出させた人物だ。ハウゲンは10月5日に上院で証言する予定となっている。さらにフェイスブックは米国において反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)訴訟でも争っており、結果次第ではインスタグラムとワッツアップの売却を余儀なくされる可能性もある。
フェイスブックのインターネット
世界中で35億人を超える人々が、フェイスブックのサイトやメッセンジャー・アプリ、インスタグラム、ワッツアップをはじめとする、フェイスブックのソーシャルネットワークやアプリを利用している。フェイスブックのユーザー人口が最も多いのはインドで、ユーザー数は3億4000万人と推定されている(一方の米国の推定ユーザー数は2億人だ)。
こうしたユーザー拡大はフェイスブックが計画したものだった。長年にわたり同社は、開発途上国のインターネット・アクセスの拡大と、それに伴うユーザー基盤の拡大に取り組んできた。フェイスブックは、人工衛星、ドローン、ラジオ通信による無線ネットワークの利用を探り、地域の通信企業と提携して物理的なインターネット・インフラの改善を図ってきた。
2013年、フェイスブックはユーザーがデータ通信料を発生させずにフェイスブックや特定のWebサイトにアクセスできる取り組みである「インターネット・ドット・オルグ(Internet.org)」を立ち上げた。これは、当時モバイルデータにアクセス可能だった世界人口の85%にインターネットアクセスを提供し、世界をオンライン化するというマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)の壮大な計画の一部だった。
だが2016年、この計画(現在は「フリー・ベーシックス(Free Basics)」に名称変更されている)は、ネットワーク中立性を侵害しているとして、インド電気通信規制庁(TRAI)によって禁止された。このつまずきにもかかわらず、フェイスブックはその他の開発途上国を相手にひっそりと計画の展開を続けていった。2018年にフェイスブックは、インターネット・ドット・オルグによって1億人がオンラインに接続できるようになったと発表した。2019年には、アフリカ約30カ国をはじめ、65カ国でフリー・ベーシックスが利用可能となった。2020年にフェイスブックは、「フェイスブック・ディスカバー(Facebook Discover)」の展開を開始した。フェイスブック・ディスカバーは、インターネット・ユーザーがデータ通信の上限に達していても、低帯域のトラフィックで全てのWebサイト(フェイスブックの所有するサイト以外も含む)にアクセスできるというサービスだ。
こうしたプログラムのさまざまなバージョンはアフガニスタンにも存在し、多くの新規インターネット・ユーザーがフェイスブック、フェイスブック・メッセンジャー、ワッツアップを、インターネット全体と同等なものだと見なしている。他方、すべてのWebへの幅広いアクセスが可能な人々の間でさえ、フェイスブックの一連のプロダクトは重要な役割を担っていた。例えば、より高額で安全性の低い電話の代わりにワッツアップの通話機能が利用されるようになったのはずいぶん前のことだ。多くの中小企業は、製品の販売や宣伝をフェイスブックのツールに依存している。
こういったことはつまり、フェイスブックが一時的にせよ接続障害を起こしたら、壊滅的な影響が出ることを意味している。活動家や人権擁護組織、そしてベザンのような人々に与える影響は特に大きい。
「多くの地下計画や支援がソーシャルメディア上で動いています」とベザンは話す。そしてその大半が、フェイスブックやワッツアップ、メッセンジャー・アプリを通じてやりとりされている。フェイスブックの今回の接続障害によって、「アフガニスタンの人々に情報や避難の次のステップに関する戦略計画を伝え、必要としている人々を繋げる」というベザンの取り組みが妨げられた。
フェイスブックが復旧し始めた時、ベザンの現地では午前0時を過ぎていた。しかしその時点でも、検索や通知といった一部の機能は利用できない状態だった。その時点でベザンの元には、避難者を追加できるかどうかに関する連絡はまだ入ってきていなかった。
しかしベザンは、外界との主要な通信手段を突然断たれたアフガニスタンの友人たちが、どんな気持ちで何を考えているのかということについても懸念していた。アフガニスタンの首都カブール陥落以降の数週間、タリバンがインターネットへのアクセスを遮断したのではないかという複数の噂が持ち上がっていたからだ。「新政府がメディアをいかにブロックしているのかという噂や作り話が、アフガニスタンで広まっているはずです」とベザンは言う。
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