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米国で導入進む「ワクチン・パスポート」、どこでどう使う?
Ms Tech | Pexels
What you need to know about US vaccine proof on your phone

米国で導入進む「ワクチン・パスポート」、どこでどう使う?

新型コロナワクチンの接種が進み、ワクチン接種証明の提示を条件に行動制限を緩和する動きが広がっている。どのような場所でワクチン接種証明が必要になるのか、証明書を格納できるスマホ用アプリにはどのようなものがあるのか。米国での動きをまとめた。 by Harini Barath2021.10.05

MITテクノロジーレビューは、米国において展開されているワクチン接種証明書アプリと、ワクチンの接種証明に使える手段について情報を追っている。ところが、矛盾していたり混乱を生じさせたりする情報が散乱し、多くの開発者が人気のあるアプリを提供しようと競い合っている。以下に、よくある質問とその答えをまとめた。

基本的な情報

Q:デジタル・ワクチン接種証明書とは、ワクチン・パスポートと同じものなのか?

デジタル・ワクチン接種証明書は、紙の記録の代わりに自身の所有するスマートフォンにインストールしたアプリを使って、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を受けた事実の証明を可能にするものだ。この証明書がワクチン・パスポートとも呼ばれており、米国では各州が多様な政策を用意し、導入計画を進めている。

州によってはワクチン証明が必要な場合に備えて、独自のアプリを用意している。ニューヨーク州の「エクセルシオール・パス(Excelsior Pass)」やニュージャージー州の「ドケット(Docket)」、コロラド州の「マイコロラド(myColorado)」などだ。ルイジアナ州の「LA ウォレット」は運転免許証を格納できるアプリだが、新型コロナ・ワクチンの証明書の保存にも利用できる。デジタル証明書を予防接種記録と紐付ける方法は、州によって違いがある。例えばカリフォルニア州では、ワクチン接種済みで、個人情報を入力した個人に対してQRコードを送信する。アリゾナ州やワシントンDC、ルイジアナ州、メリーランド州、ミシシッピ州、ノースダコタ州、ワシントン州、ウェストバージニア州のように、マイIRモバイル(MyIRMobile)と提携している州や地区もある。一方で一部の州、例えばアラバマ州やフロリダ州、モンタナ州、テキサス州などでは、ワクチン証明を要求することについて州知事や州議会議員が積極的に反対している。

接種証明の義務化に対する全米各州の態度や、デジタル化の手段についての動きを確認するには、MITテクノロジーレビューによる新型コロナワクチン・アプリに関するガイドをご覧いただきたい。

Q:ワクチン証明のために、スマホにアプリを入れたほうがいいのはなぜ ?

米国疾病予防管理センター(CDC)は記録カードを発行しており、すでに実績がある。スマホによるワクチン接種証明はこのカードほどは信頼できないと指摘する専門家もいる。確かにそうかもしれない。だが、ワクチン・カードをどこでも持ち歩くための代替・補足手段としては有用だ。それに、ワクチンのデジタル証明には、必ずしも新たなアプリのインストールが必要なわけではない。紙の記録カードの写真かスキャン画像をスマホに保存していれば、証明に利用できる地域もある。また、アップルのiOS 15向け「ヘルスケア」では、新型コロナ・ワクチンの証明などの健康記録を保存できる。

アプリはワクチンの接種情報を保存する手段として非常に便利だが、このテクノロジーが比較的新しく、しかも急速に展開が進んでいるため、データ・プライバシーに関する潜在的リスクについて専門家たちが警鐘を鳴らしていることにも留意したい。

街中での利用

Q:毎日の生活、例えばレストランで食事をする際などにもワクチン証明書を提示しなければならないのだろうか?

米国内の大部分の自治体では、飲食店への入店時にワクチン接種を義務化していない。ニューヨーク市はワクチン接種の義務化をいち早く発表したが、同様の動きは依然として他の都市にはほとんど広がっていない。ニューヨーク市はレストランやジム、その他の屋内娯楽施設、例えば映画館や博物館への入場時に、少なくとも1回のワクチン接種証明が義務付けている。サンフランシスコ市やニューオーリンズ市もこれに続いたが、サンフランシスコ市ではより厳格な措置をとっており、利用客に2回の接種証明を義務付けている。ロサンゼルスやシアトルも、10月に同様の義務化措置を施行する計画だ。

個人レストランの一部も、客に接種証明の提示を求め始めている。街での食事にワクチン証明書が必要かどうか知りたいときは、「オープンテーブル(Open Table)」の地図を確認するか、レストランに直接聞いてみるとよいだろう。

Q:企業は、建物に入る際にワクチン接種証明を義務化することが法的に許可されているのか?

許可されている。ニューヨーク市やロサンゼルス市などの自治体では、レストランやジム、映画館、その他の商業施設が、利用客に対してワクチン接種を求めている。こうした措置は、大都市を除くとまだ一般的な慣行とは言えないが、民間企業もまた、サービスを提供する前にワクチン接種の証明を法的に要求できる。

Q:企業は従業員に対してもワクチン証明を求めることができるのか? 学校は?

健康上あるいは宗教上の理由による例外規定を設けている限り、企業や官庁がその従業員・職員に対してワクチン接種を義務付ける行為は合法である。すでに多くの企業が従業員に対してワクチン接種を義務化しており、他の企業もこれに続いている。

多くの学区において教員や学校職員に対してワクチン接種が義務付けられている。しかしほとんどの地域では、生徒はいまだこの規定の対象となっていない。ロサンゼルス市は、対面授業に参加する12歳以上の生徒に新型コロナワクチンの接種を義務化した最初の大規模学区だ。まだ、16歳未満の子どもへの新型コロナワクチン接種は、米国食品医薬品局(FDA)の正式承認を得ていない。正式承認が得られれば、より多くの州や学区が、生徒に必要な予防接種リストの中に新型コロナ・ワクチンを加える可能性がある。ワクチン接種を義務化する大学もますます増えている。

旅行

Q:米国内の航空旅行にもワクチン証明が必要なのか ?

米国疾病予防管理センター(CDC)は、米国内を旅行する際にワクチン接種を受けることを推奨しているが義務ではない。各航空会社は接種の証明に使える複数のアプリを受け付けている。

国際航空運送協会(IATA:International Air Transport Association)は、新型コロナウイルスの検査結果や、ワクチン接種証明書の保存・管理に使えるモバイルアプリ「IATAトラベル・パス」の配布を始めた。ブリティッシュ・エアウェイズやエールフランス、エミレーツ航空、シンガポール航空、ヴァージン・アトランティック航空など、40社以上の航空会社と提携している。「ヴェリフライ(VeriFLY)」というアプリもある。これはアメリカン航空やアラスカ航空などが受け付けているほか、米国から出発する航空便でも利用できる。「クリアー・ヘルス・パス(Clear Health Pass)」はCDC発行の紙の記録カードのスキャンや、ハワイ州を含む複数の州によるワクチン証明書を表示できる。ハワイ州ではワクチン接種を受けた旅行者に対しても厳しいルールを課しており、非接種者には10日間の隔離を含む、さらに厳格なルールを課している。ハワイ州はまた、コモンパスや州独自のアプリを介した記録も受け入れており、詳細な手順書を掲載したポータルサイトも用意している。

米国からの外国旅行をお考えであれば、CNNトラベルに掲載されている、米国のパスポート保有者を歓迎する国のリストをチェックするのも良いだろう。

より広い視野で

ワクチン接種証明書の今後の見通しについて、テクノロジー・イノベーション・センター所長でブルッキングス研究所の上級研究員でもあるニコル・ターナー・リーに話を聞いた。ターナー・リー所長によると、当然のことながら人々は困惑しており、多少狂乱的にすらなっているという。「私たちはスマホの中にワクチン証明書、その写真を持っています。そして書類棚にはその複製まで保存しています。これが現在、どこかへ行くための手段になってしまったからです」。

新たなデジタル的な障壁が登場しても、多くの人間はそう簡単には受け入れられないと、ターナー・リー所長は強調する。ターナー・リー所長は、最近行ったというハワイへの旅行を引き合いに出した。到着するとすぐに、「スマートフォンを出して、リストバンドをもらうためにQRコードを見せなければなりませんでした。非常に奇妙な体験でした。このようなワクチン・パスポートの普遍的な利用が広がるにつれて、建物への入場を拒否する可能性のある公的機関や民間施設が増えていくことでしょう」。

そのようなことになれば、基本的な公平性に重大な影響があるかもしれないという。「私たちは、デジタル機器を利用しにくい人々にとって、このことが何を意味するのかというデータを集める必要があります」とターナー・リー所長は述べる。同時に、このテクノロジーを完全に排除できるわけでもないという。「ある意味で、身動きができない状態なのです。健康というものが重大な問題であるからこそ必要なことなのです」。

取材協力:リンジー・ムスカート

この記事は、ロックフェラー財団が支援するパンデミック・テクノロジー・プロジェクトの一環として執筆されたものです。

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