米成功事例に学ぶ、対面授業の安全を確保する11のポイント
長らく休校していた米国の多くの学校で対面授業が再開した。学校の安全を守るために何をするべきか? 先行して再開して成功を収めた学区の事例から学べるポイントを紹介する。 by Betsy Ladyzhets2021.10.15
この1年間、米国では学校再開をめぐって激しい議論が巻き起こった。ズーム(Zoom)が学校教育に広く導入された後は、意見は真っ二つに割れた。教室での授業再開を支持する教職員や保護者、科学者もいれば、安全第一を主張する人もいた。例えば、ジョージア州ではマスクを着用しない生徒たちの画像が拡散される一方で、ニューヨーク市では教師らが手作りの棺桶とギロチンを手に抗議活動を繰り広げた。
しかしこうした数々の報道に反するように、他の多くの公立学区では昨年、危惧されていた新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクを引き起こすことなく、大半の生徒を教室に戻すことができた。なぜ可能だったのだろうか?
ソリューション・ジャーナリズム・ネットワーク(Solutions Journalism Network)の支援を受けて発行している『COVID-19データ・ディスパッチ(COVID-19 Data Dispatch)』は、対面授業の再開に成功した5つのコミュニティで調査を実施した。これら5つのコミュニティでは、いずれも生徒の大半が春学期末までに対面授業に戻り、公式発表による新型コロナウイルスの感染者数は生徒総数のうち5%に満たなかった。この「5%」は重要な指標だ。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、パンデミックの開始から2021年8月初旬までの間の米国の学齢期の子どもの感染率が約5%だったためだ。
以下が調査を実施した5つのコミュニティだ(日本版注:米国では行政区から独立した公立学区が教育行政を担い、学校を運営する。以降の地域名は学区を指す)。
1. 公衆衛生局との連携が鍵
今年度の授業を再開するにあたって、課題に直面している他の学区の参考になる教訓が今回の調査から得られた。
インディアナ州オースティンでは、2015年にHIV/エイズのアウトブレイクが発生した際に築き上げた学区と地域の公衆衛生局間の関係によって、円滑なコミュニケーションが実現している。同学区と地域の公衆衛生局は、協力して授業再開計画を策定。住民はHIV予防活動に慣れていたこともあり、新型コロナウイルス感染症の安全対策にも迅速に従った。
メリーランド州ガレット郡の学区は、地域の公衆衛生局と協力して、生徒と学校職員が検査を受けられるように手配した。テキサス州アンドリューズ郡の学区も2020年秋に郡保健局と協力体制を敷いて検査を実施したものの、学校内での必要な安全対策に関する意見で相違が発生。2020年度後半に両者の関係は破綻した。
「基本的にCDCが言っていたのは、それぞれの学校自体が小さな保健所になる必要があるということです」。テキサス大学ヒューストン医療科学センターの疫学者で、ニュースレター「あなたの地域の疫学者(Your Local Epidemiologist)」を発行するケイトリン・ジェテリーナ准教授は話す。しかし、「学校にはそのために必要な専門知識が存在しません」。その結果、地域の公衆衛生局が学校の指導者にとって貴重な科学的知識の情報源となる。
「実際にはほとんど例はありませんが、学区に保健所の職員を配置することが理想的でしょう」とニュージャージー州立養護教諭協会の共同議長で、ブログ「諦めない養護教諭(Relentless School Nurse)」の筆者であるロビン・コーガンは付け加える。
2. コミュニティの提携関係で、学校サービスの足りない部分を補う
公衆衛生局のほかにも、学校の外との連携が有効な分野が存在する。今回の調査では、特にテクノロジーと物理的な場所の需要に対応するための連携に注目した。オレゴン州のポートオーフォード・ラングロワ学区は、テクノロジー・サービスや、放課後の宿題に取り組む生徒を支援する場所のほか、授業時間外のWi-Fiや課外活動を提供するために地域の公共図書館の協力を仰いだ。一方、メリーランド州ガレット郡の学区は、教会やコミュニティ・センターなど地域の中心的な施設と協力して、学区内の家庭にWi-Fiと食事を提供した。
これらの学区では、多くの家庭が自宅にWi-Fiを設置しておらず、オンライン学習の課題に直面していた。コミュニティとの連携によってインターネット接続環境を拡大することで、生徒がオンライン学習を継続できるようにしただけでなく、学校職員が各家庭の要望に対応できる姿勢を保護者に示すことで、将来の対面授業に向けた信頼関係を築くことができた。
3. 保護者とのコミュニケーションは、先を見越した継続的なものでなければならない
手厚いコミュニケーションは、5つのコミュニティすべてに共通したテーマだ。パンデミックが発生した激動の年において、保護者たちは学校が何をしているのか? なぜそれをしているのか? 正確に知りたがっていた。今回調査した学区では、保護者がすぐに最新情報を入手したり、質問したりするための十分な機会が提供されていた。
例えば、ニューヨーク市ブルックリン区のP.S. 705(Public School 705の略、具体的には「ブルックリン・アーツ&サイエンス小学校」を指す)では、学年ごとの意見交換会を教職員が毎週開催し、保護者が質問できる「バーチャル・オープン・オフィス」に職員を毎日配置した。このようなフォーラムは、教職員が保護者と話し、フィードバックを得られる「双方向コミュニケーション」の理想的な機会だとジェテリーナ准教授は話す。
アンドリュース郡も2020年度の始業前に、保護者からの質問を受け付けるための意見交換会を開催した。ガレット郡では、学区管理者らが保護者たちから質問を受けるたびに膨大なFAQ文書(現在は22ページ)を更新した。この学区と、P.S. 705、それにポートオーフォード・ラングロワはいずれも、電話で保護者と学校職員が1対1で話せる機会を提供 …
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