ホワイトハウスは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンのブースター接種を開始すると9月24日に決定した。米国疾病予防管理センター(CDC)の所長を務めるロシェル・ワレンスキー博士が、CDC諮問委員会の意見を覆し、最前線の労働者に対するファイザー/バイオンテック(BioNTech)製ワクチンの3回目接種の推奨を支持したことを受けてのことだ。
現時点で米国では、次の3つのグループに属する人々がブースター接種の対象となっている。(1)65歳以上の人、(2)基礎疾患がある成人、(3)新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)曝露のリスクが高い仕事に就いている人々だ。 CDC諮問委員会は、(1)(2)のグループを対象としたブースター接種のみを推奨していたが、ワレンスキー所長はこれに同意せず、3つ目のグループを追加。9月22日に発表された米国食品医薬品局(FDA)の決定と一致するという事実を指摘することで、自身の決定を正当化した。
CDCは2回目の接種から遅くとも6か月後には3回目の接種が実施されるべきだと推奨している。モデルナ(Moderna)およびジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチンについてはまだ評価していないが、近いうちに評価する予定となっている。
バイデン政権は、できる限り多くの国民にブースター接種を受けさせることに躍起になっており、16歳以上のすべての米国人にブースター接種を提供する計画を立てている。だが、それを裏付ける科学的な根拠はほとんどない。 ワクチン接種後の免疫能が時間の経過とともに低下するという証拠が複数存在するものの、ワクチンは死亡を防ぎ、重症化を回避する点では依然として効果的だとみられる。免疫障害を抱える200万人以上の米国人は、すでにブースター接種を受けている。
ブースター接種は物議を醸している。FDAと世界保健機関(WHO)の専門家を含む一流の科学者で構成されるグループが9月13日にランセット(Lancet)誌に発表したレビュー論文は、ワクチンは依然として重症化と死亡を防ぐのにとても効果的であるため、ブースター接種は不要だと主張。 この科学者グループはさらに、ワクチン接種済みの人へのブースターではなく、ワクチン接種を受けていない人に対してワクチンの供給を向けた方が、より多くの命を救えると述べている。そうした理由から、WHOは富裕国に対して、世界でより多くの人がワクチン接種を受けるまで、ワクチンをブースター接種に分配するのをやめるように訴えてきた。
世界では、英国、アラブ首長国連邦(UAE)、フランス、ドイツ、イスラエルが、すでにブースター接種のプログラムを開始している。例えば英国では、9月第3週に当局からゴーサインが出され、50歳以上のすべての人に対するブースター接種の展開が始まろうとしている。その一方で、ワクチン接種が完了しているのは、欧州連合(EU)では成人の70%であるのに対して、アフリカでは人口の4%に満たない。米国では55%となっており、ここ数週間、この数字は大きく変わらずにいる状況だ。バイデン大統領は9月22日に、米国がさらに5億回分のワクチンを購入して世界の他の地域に分配すると発表した。これで、米国が関与するワクチンは計10億回分以上となった。
数百万の米国人が3回目の接種を受けようとする可能性がある。今夏に実施されたユーガブ(YouGov)の世論調査では、ワクチン接種済みの米国人の5人に3人が、接種可能になればもう1回受けることが判明した。米国のワクチン展開の混沌とした状況を考えると、厳密にはブースター接種の対象者でなくても、制度を悪用して3回目の接種を受ける人が出てくるのを防ぐことは難しいだろう。