カリフォルニア州アラメダにある材料会社「シラ・ナノテクノロジーズ(Sila Nanotechnologies:以下、シラ)」は、過去10年間にわたり、リチウムイオン電池に蓄えられるエネルギー量を増大させることに取り組んできた。ガジェットの小型化や、航続距離の長い電動移動手段(電気自動車)の実現が期待される取り組みだ。
シラが開発したシリコンベースのナノ粒子は、現在、アノード(負極)に使われている黒鉛(グラファイト)に取って代わり、バッテリーの電流を運ぶリチウムイオンをより多く保持できる。同社はこのほど、初の製品をついに市場に投入した。9月8日発売のフィットネス・ウェアラブル機器「ウープ4.0(Whoop 4.0)」のバッテリーに使用されている負極粉末の一部を供給している。ウープは小さなデバイスだが、研究室での有望な結果が商業的な成功に結びつかないことが多いバッテリー分野において、大きな一歩となる可能性がある。
シラのジーン・ベルディチェフスキー最高経営責任者(CEO)は、「ウープ4.0が、私たちにとってのテスラ・ロードスターだと考えてください」と話す。ベルディチェフスキーCEOは、テスラの7人目の社員として、テスラ初の電気自動車のバッテリーに関するいくつかの重要な問題を解決するのに貢献した人物だ。「(ウープ4.0は)この画期的な進歩を証明する、市場で初めてのデバイスなのです」。
シラが開発した材料は、他の先進技術の助けを借りながら、フィットネス・トラッカーのバッテリーのエネルギー密度をおよそ17%向上させている。リチウムイオン・バッテリーのエネルギー密度は通常、年に数パーセントしか向上しないことから、シラが成し遂げたイノベーションは非常に大きな進歩だと言える。
カーネギーメロン大学工学部機械工学科のベンカット・ビスワナサン准教授は、これは標準的な進歩の約4年分に相当するもので、「一度の大きな飛躍でそれを成し遂げたことになります」と述べる。
気候変動の危険性がますます高まる中、世界で脱炭素の動きが加速している。まだいくつか技術的な課題を残しているものの、今回の成果はバッテリーの性能向上の可能性を示す有望な兆候だ。バッテリーに蓄えられる電力量が増えれば、ますますクリーンな電力源が、より多くのビルや自動車、工場、企業に電力を供給するのを容易にするだろう。
エネルギー密度の高いバッテリーは、輸送部門では電気自動車のコスト削減と航続距離の延長につながり、消費者にガソリン車を手放すのを躊躇させている2つの大きな問題を解決できる。また、太陽光発電や風力発電で得られるエネルギーをより多く蓄えることができる送電網向けの蓄電池や、1回の充電でより長い時間使用できる消費者向けガジェットなどの実現も期待できる。
2017年にMITテクノロジーレビューの「35歳未満のイノベーター(Innovator Under 35)」に選出されたベルディチェフスキーCEOは、「あらゆるものを電化する」にはエネルギー密度が鍵だと述べる。
ボストンに拠点を …