4万基で地球を覆うスペースXの衛星ネット、顧客はどこに?
スペースXが、大量の通信衛星群によるインターネット接続サービス「スターリンク」のベータサービスの提供を開始した。だが、当面の間、対象は経済的に余裕のある顧客に限られ、同サービスが発展途上国にどのような影響を与えるかは不明だ。 by Neel V. Patel2021.09.08
サリー大学のコンピューター科学の教授であるアラン・ウッドワードは、イングランド南西部の田舎で暮らしている。近所には2本足より4本足の生き物のほうが多いと冗談交じりに話す。主な研究分野はサイバーセキュリティや通信、フォレンジック・コンピューティング(電子情報の科学捜査)などだ。ウッドワード教授は、高速インターネットを必要としているが、残念なことにこれまで良い手段が見つからなかった。
「いわゆる超高速インターネットを使った方法を、これまで何度も試してきました」とウッドワード教授は話す。「すべて失敗でした。どれもうまくいかないのです。ファイバーを家まで引いてみたいと言っても、無理な相談ですと見積もりさえ出してくれません。お手上げ状態でした」。大容量のファイルを同僚に転送しなければならない場合、ウェブを利用するよりもUSBスティックを郵送する方が簡単だと冗談半分に話す。
しかし6週間前、スペースX(SpaceX)のインターネット・サービスである「スターリンク(Starlink)」のおかげで状況が一変した。ウッドワード教授はスターリンクのベータユーザーになったのだ。このサービスは、地球を周回する1600基の人工衛星(その数は増え続けている)を使用して、地上の人々にインターネットアクセスを提供するというものだ。7月末の時点で、スペースXはユーザー数を約9万人と報告している。「数週間使ってみてスターリンクの熱烈なファンになりました」とウッドワード教授は話す。
さらに、「私のような田舎で暮らしてきた人間にとって、スターリンクは天啓といえるような存在になるでしょう」と語る。
しかし、スターリンクは、遠隔地にいるサイバーセキュリティ分野の教授にインターネットを提供するためだけに設計されたわけではない。スペースXは、より大きなビジョンを提唱している。現在、インターネットにまったくつながっていない地球上の37億人もの人々に、高速の衛星インターネットを提供したいと考えているのだ。多くの人々は、携帯電話通信でなんとかやりくりしており、その性質上、高額な代替策となっている(アフリカのサハラ以南における1ギガビットのデータの費用は平均月給の40%に相当する)。
また、インターネットアクセスはあるもののブロードバンド接続がない人々も存在する。米国のほぼ全域でインターネットにアクセス可能だが、1億5700万人の米国人(その大半が地方に在住)は、ブロードバンドのインターネットを使用できない。黒人のコミュニティは、ブロードバンドインターネットの利用率が不釣合いに低い。これは、白人(そして富裕層)が比較的多いコミュニティに近接している場合でも同様だ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを経験し、ほとんどの人がライフラインとしてのインターネットに頼った時期を経たいま、高速インターネットが一部の人たちにとっていまだに手の届かない贅沢品であるとは考えにくい。
残念ながら、スターリンクがこの規模の大きい問題を実際に解決できるかどうかは定かではない。スペースXの創業者であるイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、6月に開かれたカンファレンスで、「実際のところスターリンクは、人口のまばらな地域のためのものです」と話した。「人口密度が高いエリアでは、限定的な数の顧客にサービスを提供することになるでしょう」。世界中の多くの地方在住者は、料金を支払う余裕が無いとして、サービス対象から除外されるだろう。
スターリンクは、顧客ベースを拡大するため、早期に値下げする必要がある。だが、毎年数百基から数千基もの人工衛星を打ち上げ続けるには、十分な収益を上げる必要もある。これは、微かな針穴に糸を通すような試みだ。
価格設定
典型的な衛星インターネットサービスでは、静止軌道と呼ばれる高い軌道に数基程度の人工衛星を配置する。個々の人工衛星は比較的広範囲にサービスを提供できるが、レイテンシー(遅延時間)も大きくなる。ウッドワード教授はそのようなサービスを利用したことがあるが、どれも「役に立たない」と感じた。
スターリンクや、ワンウェブ(OneWeb)、アマゾ …
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