KADOKAWA Technology Review
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タリバンの手に渡った
アフガン生体認証データ、
その恐るべき実態
Andrea Daquino
倫理/政策 Insider Online限定
This is the real story of the Afghan biometric databases abandoned to the Taliban

タリバンの手に渡った
アフガン生体認証データ、
その恐るべき実態

米国は「アイデンティティによる統治」を目指し、アフガニスタンで政府軍や国家警察関係者の生体認証データベースを構築した。だが、このデータベースがタリバンの手に落ちた現在、人々はタリバンの報復を恐れている。 by Hikmat Noori2021.09.07

8月中旬、タリバンがアフガニスタンを一気に制圧し、20年間に及ぶ戦争の終結を宣言したとき、虹彩のスキャンや、指紋、 顔の画像などのデータ収集に使われた米軍の生体認証デバイスも押収されたという報道が駆け巡った。一部の人々は、「HIIDE(ハイド)」と呼ばれているこのデバイスが、連合軍に協力したアフガニスタン国民の特定に使われるのではないかとの懸念を示した。

MITテクノロジーレビューの取材に応じた専門家らによると、生体認証データは遠隔地にある安全なサーバーに保存されており、HIIDEデバイスからのアクセスは実際のところ限定的なものだという。しかし、取材によると、アフガニスタン政府のデータベースには、国内の何百万人もの国民の特定につながる機密性の高い個人情報が含まれており、より大きな脅威となっている。

MITテクノロジーレビューは、そうしたシステムの1つであり、「APPS(Afghan Personnel and Pay System:アフガニスタン職員支払システム)と呼ばれる、米国が資金提供したデータベースに詳しい2人に話を聞いた。アフガニスタンの内務省と国防省が政府軍や警察への支払いに使用したAPPSは、間違いなく同国のこの種のシステムの中で最も機密性の高いものであり、治安部隊やそのネットワークに関する非常に詳細な情報を含んでいる。報復の危険性を回避するため、情報源には身元を伏せることを条件に取材に応じてもらった。

APPSに詳しい関係者の推定によると、偽の身元、いわゆる「ゴースト・ソルジャー」を使用した受給詐欺の件数を減らすため、2016年に開始されたこのプログラムには、アフガニスタンの政府軍と国家警察の全構成員に関する約50万件の記録が含まれているという。 同システムに関わった人物によると、データは「入隊した日から」収集され、現役で役務を提供しているか否かにかかわらず、そのデータは永久にシステムに残る。レコードは更新されることがあるが、削除やデータ保持に関する方針は存在しなかったという。今回のタリバンによる奪取のような、不測の事態に関する方針についても同様だ。

NATO(北大西洋条約機構)のアフガニスタン合同治安移行コマンドによる警察の採用プロセスに関するプレゼンテーション資料を見ると、応募書類の1種だけで36のデータポイントが収集されていたことが分かる。複数の情報源によると、APPSの各プロファイルには少なくとも40のデータフィールドが存在するという。

その中には、名前や生年月日、出生地といった明白な個人情報のほか、各プロファイルをアフガニスタンの内務省が保有する生体認証プロファイルと結びつけるための、固有ID番号も含まれている。

加えて、個々の軍における専門性や経歴の詳細、父親や叔父、祖父の名前など個人的な親類関係のデータのほか、新人として入隊するにあたり保証人となった部族の長老の名前が2名ずつ記録されていた。非営利研究グループであるデータ&ソサエティ(Data & Society )の研究員で、データインフラストラクチャと公共政策を研究しているランジート・シングによると、このデータは、単なるデジタルカタログをはるかに危険なものに変えうるという。シング博士はそれを「コミュニティのつながり」を示す一種の「家系図」と呼び、それが「データ登録された全員を危険にさらしている」と語る。

システム構築を支援した米国にとってもタリバンにとっても、敵側の協力者の「ネットワークを探る」うえで、この情報は軍事的に大きな価値を持つ。そう語るのは、 『First Platoon: A Story of Modern War in the Age of Identity Dominance(最初の小隊:アイデンティティが支配する時代の現代戦争の物語、未邦訳)』の著者であるジャーナリストのアニー・ジェイコブセンだ。

しかし、収集されたデータのすべてが明確な用途を持っているわけではない。例えば、警察のID申請フォームには、新規採用者の好きな果物や野菜の記入欄もある。国防長官府は、これらの情報に関して米国中央軍に照会したが、データの用途に関してコメントが返ってくることはなかった。

果物や野菜について尋ねるのは警察の応募フォームにおいて違和感があるかもしれないが、収集される情報の幅広さを示している。それと同時に、2つの重要な質問を投げかけているとシング博士は語る。すなわち、国家の目的を達成するうえで収集するのが適当なデータは何か、そして、データ収集のメリットとデメリットのバランスは適切か、という点だ。

アフガニスタンでは、米軍とその委託業者が生体情報の収集を開始してから数年が経つまで、データ・プライバシー法が起案・制定されることがなかった。そのため、これらの質問に対する明確な答えが示されることはなかった。

その結果、記録された情報は、ありとあらゆる方面に及んだ。

関係者の一人はこう語る。「私たちが情報収集しないだろうと考える分野を1つ挙げてみてください。そうしたら、『不正解。それも収集しています』と答えるでしょう」。

その後、彼は発言を訂正した。「母親の名前については、尋ねていないと思います。私たちの文化では、自分の母親の名を明かしたがらない人もいますから」。

高まる報復の恐怖

タリバンは、旧政府や連合軍に協力したアフガニスタン国民を対象とした報復はしないと公式に宣言した。しかし、タリバンの行動は、これまでも制圧後も、安心できるものとは言えない。

8月24日のG7特別会議で、国連人権高等弁務官は「アフガニスタンの市民や国家治安部隊の即決処刑」に関する信頼性のある報告を受けていると語った。

同データベースに詳しい人物はこう語る。「タリバンがデータベースを見て、それに基づいたリストを印刷し始めて、今、元軍人の首狩りをしているとしても、驚くほどのことではありません」。

アムネスティ・インターナショナルの調査により、タリバンは7月初 …

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