米国のインフラは、過去の気候条件のために作られている。地球温暖化はそのことを繰り返し、繰り返し、繰り返し、明確にしてきた。
メキシコ湾の異常に暖かい海水によって勢力を増した大型ハリケーン「アイダ(Ida)」は、8月29日に米国南部のルイジアナ州に上陸し、報道によると、同州ニューオーリンズ市内へとつながる8つすべての送電線をなぎ倒し、街を暗闇に陥れた。
広域にわたる電力システムへの被害により、嵐の余波とうだるような高温に苦しんでいた100万人以上に、電力が供給できなくなった。この地域の主な電力会社であるエンタージー・ニューオーリンズ(Entergy New Orleans)は、電力供給を完全に復旧させるには数週間かかる可能性があるとの声明を出した。
ハリケーン・アイダは、7月に太平洋岸北西部で起こった記録的な熱波に続く気象災害である。太平洋岸北西部の熱波の際には、電力需要が急上昇したことで、いくつかの地域で電力の供給が止まってしまった。事態のさらなる悪化を防ぐため、電力会社は計画停電を実施せざるを得なくなった。少し遡ると、テキサス州では2月に、極寒の気温によって電力需要が急上昇し、天然ガス田や配管が凍り付くことで、数日にわたって400万人に電力が供給できなかった。
カリフォルニア州では、山火事によってパラダイスの町が壊滅しかけた。こうした事態の再発を防ぐべく、強風が発生して山火事のリスクが高まった時には、電力会社が送電線による電力供給を停止させることで、切れた送電線の火花が燃え移って火事が起こらないようにしている。
これらの気象災害のいずれもが、気候変動によって悪化し、起こる確率が高まっている。そして、電力需要の急上昇を引き起こしたり、発電所を停止させたり、送電線をなぎ倒したりして、それぞれ違った形で電力システムにダメージを与えている。
これらはそれぞれ異なる、多大なコストを要する解決策が必要な課題だ。だが、同一の課題も浮き彫りになっている。より頻繁でより深刻に起こり得る異常気象をもってしても電力が失われないような、現代的で、堅牢で、かつ相互接続された発電・送電のシステムを作る必要があるということだ。
熱波や冬の嵐、洪水の際に電力を失うのは、不便なだけではない。多くの場合、生きるか死ぬかの問題になり得る。
そのためには、灼熱と極寒の両方の気候でも安全に稼働できるように発電所に耐候性を持たせ、運営事業者が先読みして問題を回避するのを支援できるように、センサーやソフトウェアを活用した送電網に最新化する必要があるだろう。
さらに、いかなる気候条件でも家庭や企業に十分な電力を供給できるようにするために、より多様な電力源を開発するとともに、今より格段に大量の電力を貯蔵できるようにする必要がある。断片的でガタが来ている現在のシステムを互いに結び付けて、すべての発電所や、必要な電力をどこへでも供給するための送電塔および送電線に、より大きな冗長性を持たせる必要もあるだろう。
加えて、災害の最中や、送電線が切れたりより広い範囲で停電が起こったりしても局所的に電力を供給できるように、マイクログリッドを増築する必要もあるかもしれない。あるいは、電線が火花を散らしたり、過酷な嵐で倒れたりしないように、より多くの電線を地中化する必要もあるだろう。
朗報もある。米国議会で現在進められている1兆ドルのインフラ関連法案には、現代的で相互に接続された送電網の開発を促進する資金や政策が盛り込まれていることだ。さらに、カリフォルニア州などの一部地域の電力会社は、電線を地中化したり、発電量や電力貯蔵量を増やしたりして、送電網の強化に向けた歩みを進めている。
ただ、インフラ関連法案が通ったとしても、送電網のレジリエンス (回復力)が有意に改善されるには、莫大な金額の民間投資や、国民の支持、および時間が必要になるだろう。さらに、今後数十年の間に気候変動によってもたらされる、電力システムにかかる負担の増加や、人々にもたらされる危険を完全に抑え込むことはほぼ不可能だろう。