統合情報理論が解き明かす「意識」とは何か?
あるものが意識を持つとはどういう状態なのだろうか。人間や動物だけでなく、木や植物、バクテリアも意識を持つのだろうか。統合情報理論(IIT)によると、あるシステムが意識を持っているかどうかを定量的に予測できるという。 by Christof Koch2021.08.31
汎心論とは、人間や動物だけでなく、木や植物、バクテリアなど、宇宙のいたるところに意識が存在すると考える思想だ。汎心論者は、素粒子の中にも心が部分的には存在すると考えている。意識が広く行き渡っているという考えは、多くの人にとって知的、そしておそらく感情的な理由から魅力的だ。しかし、それは経験的に検証できるのだろうか?意外なことに、できるかもしれない。なぜなら、最も人気のある意識についての科学理論の一つである「統合情報理論(IIT:integrated information theory)」は、すべてではないにせよ、多くの特徴を汎心論と共有しているからである。
米国の哲学者であるトーマス・ネーゲルが主張しているように、あるものが意識を持つのは、「○○であるとはどのようなことか」という問いに当てはまる「何か」が存在する場合だ。覚醒状態にある人間の脳も、特定の何かであるような感じがする。
IITでは、システムの統合情報という独自の数量を定義しており、ギリシャ文字のφ(ファイ)で表される。φがゼロの場合、システムは何も感じない。実際、システムは構成要素に完全に還元されるため、全体としては存在しない。φが大きければ大きいほど、システムはより意識的であり、より還元されないものとなる。システムの正確で完全な記述があれば、IITは経験の量と質の両方を予測する(もしあれば)。IITでは、人間の脳の構造上、人間はφの値が大きく、動物はより小さい(しかし正の)値を持ち、古典的なデジタル・コンピューターはほとんどゼロであると予測している。
人のφの値は一定ではない。幼児期には自我の発達に伴って増加し、認知症などの認知障害の発症に伴って減少することがある。φは睡眠中に変動し、夢を見ている間は大きくなり、夢を見ていない眠りの深い状態では小さくなる。
IITは、想定し得るあらゆる意識的な経験について、5つの真の本質的な特性を特定することから始める。例えば、経験は確固たるものである(排他的である)。つまり、ある経験は、それ未満のものではなく(海がもたらした青という色の感覚だけを経験し、その色を心にもたらした海の動きを経験しないことはできない)、また、それを越えるものでもない(海の存在を経験しながら、背後の木々の生い茂った枝葉を知覚することはできない)ということだ。
第2段階として、IITは、脳、コンピューター、松の木、砂丘など、あらゆるシステムが何かしらを感じるために示すべき5つの関連する物理的特性を導き出す。IITにおける「メカニズム」とは、システムの内部で因果的役割を果たす全てのもので、コンピューターの論理ゲートや脳のニューロンなどがこれに …
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