「ほぼすべてに侵入」、独裁政権と戦うベラルーシのハッカー集団
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ政権の打倒へ向けて活動しているハッカー集団は、政権内部の関係者の協力も得て、政府の「ほぼすべて」のハッキングに成功したという。 by Patrick Howell O'Neill2021.09.12
1994年にベラルーシの大統領に就任して以来、アレクサンドル・ルカシェンコは、欧州で最も強圧的な警察国家を構築し、自らが大統領職にとどまるために容赦なく独裁者が持つ権力を振るってきた。
現在、あるハッカー集団が、ルカシェンコ政権を終わらせるため、政権の広範な監視状態を変えようと試みている。そのために、国家に対する史上最も包括的なハッキングを成功させたと主張している。
「ベラルーシ・サイバー・パルチザン(Belarus Cyber Partisans)」という名で知られるこのハッカー集団は、警察や政府の数十もの機密データベースに侵入して入手したとされる情報を繰り返しリークしている。ハッカー集団は、警察が犯した犯罪の証拠、政権が国の新型コロナウイルスによる本当の死亡率を隠蔽していたことを示す情報、平和的な抗議活動を暴力的に取り締まる違法な命令の記録とされるものを公開してきた。パルチザンは、ルカシェンコ政権のほぼすべての部分のハッキングに成功しており、これまでに公開した情報は保有するデータのごく一部にすぎないとも述べている。
「我々が望んでいるのは、ベラルーシのテロリスト政権による暴力と抑圧を終結させて、民主主義の原則と法の支配を我が国に取り戻すことです」。ハッカー集団の匿名のスポークスパーソンはMITテクノロジーレビューの取材にこう語った。
だが、パルチザンは単独で活動しているわけではない。インタビューによると、ハッカー集団は、ベラルーシの司法当局者や諜報局員からなる主要グループが協力してくれたおかげで、広範囲にわたるアクセスが可能になったという。
現役の政権関係者とそのOBから構成されるBYPOLと呼ばれるグループが何カ月にもわたって綿密なアドバイスを提供している。このグループには、現在外国から支援の手を差しのべているメンバーもいる。2020年の大統領選挙で、ルカシェンコが勝利を不正に主張し、その後暴力的な弾圧を受けて国外に亡命したメンバーだ。だが、他のメンバーは、昨年の抗議活動を受けて2万7000人以上の活動家を逮捕したルカシェンコ政権を崩壊させなければならないとの信念に基づいて、政権内部からルカシェンコに立ち向かっているという。
ベラルーシの元外交官で、サイバー・パルチザンにもBYPOLにも所属していないアンドレイ・サニコフは、「ハッカー集団は政権の犯罪を透明化しています」という。「国をハッキングすることによって彼らが得ている情報は、間違いなく、政権の国民に対する犯罪行為を非常に雄弁に立証しています」。
「私はこの目で文書の改ざんを目撃しました」
ベラルーシはほぼ30年にわたってルカシェンコの支配下にあるが、2020年8月の大統領選挙以降、抗議活動や反対運動が大幅に増えた。異論を呼んだルカシェンコの勝利は、反政権勢力の抗議を呼び、ルカシェンコは平和的な抗議運動を暴力的に弾圧した。
弾圧は多くの人にとって限界点となった。アレクサンドル・アザラウは、ベラルーシの警察部隊で中佐を務め、それ以前は内務省で組織犯罪や汚職の撲滅に奔走した人物だ。彼は、自分が目撃した不正行為が政権に反発するきっかけになったという。
「私は選挙の現場にいました。私はこの目で文書の改ざんを目撃しました。上司から違法な命令を受けたことから、私は辞職を決意しました。選挙後の最初の数日間で大勢の人が拘束されました。私の同僚は、拘束された人々が犯したとする犯罪に関する偽造文書を違法に送っていました。私はルカシェンコが違法に権力の座に居座ったと判断しました」。
アザラウ元中佐は、不正な選挙の結果ベラルーシを離れた多くの司法当局者の一人だ。そのうちの十数名が隣国ポーランドのワルシャワで再結集し、10月にBYPOLを立ち上げた(このグループ名は「ベ …
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