米国のバイデン大統領が任期初期に掲げた気候変動への取り組みは、一般受けの良い施策を優先したものになった。パリ協定への再加入、クリーンエネルギーやクリーン車両の購入、化石燃料に対する補助金の廃止などだ。ただ、二酸化炭素排出実質ゼロ(ネットゼロ)に向けて舵を取る政府の戦略は、それほど明白ではないにせよ、より厄介な領域に大きく依存している。地球温暖化を促進する大量の二酸化炭素を回収・除去する技術だ。
今年7月、米国エネルギー省の化石エネルギー局(Office of Fossil Energy)は、「化石エネルギー・炭素管理局(Office of Fossil Energy and Carbon Management)」に改称された。これまで化石燃料採掘の効率化とその燃料をエネルギーに転換する方法の効率化に重きを置いてきた部署が、明確な転換を図っていることを公に示すサインだ。この部署は現在、およそ750人の連邦政府職員を擁し、10億ドル近い予算を握っている。中心的な目標は、気候変動に加担する「汚染産業」をクリーンにするための、安価で優れた方法を開発することだ。
新たな優先課題となるのは、工場や発電所からの二酸化炭素の放出を防止し、大気中から二酸化炭素を除去し、新たな製品へと加工し、永久に貯留するテクノロジーや手法の開発だ。
化石エネルギー・炭素管理局は、こうした課題に取り組む研究者たちを主要な役職に抜擢した。首席補佐官に就任したシュチ・タラティもその一人だ。彼女は今後、ジェニファー・ウィルコックス次官補代行とともに、同部署のさまざまな変化を監督する。タラティは、炭素除去と炭素リサイクルを推進するNGO「カーボン180(Carbon180)」で政策責任者を務めた経歴を持ち、憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)の一員でもある。
バイデン大統領の計画は、すでに上院で可決された1兆ドル規模のインフラ法案にも現れている。同法案では、空気中から二酸化炭素を吸収し、パイプラインを通じて輸送し、地下深くの地層に埋蔵する、直接空気回収(DAC:Direct-Air Capture)プラントの開発に数十億ドルを拠出することになっている。
気候変動対策を訴える活動家の多くが、二酸化炭素貯留は化石燃料をできるだけ早く廃絶するという最大の目標からの逸脱だと主張する。また、この分野が多くの失敗を経験してきたのも事実だ。米国エネルギー省は、20億ドル近くを注ぎ込んだ次世代クリーン石炭プロジェクトなど、数々の失敗を重ねてきた。
だが研究によれば、二酸化炭素の除去・貯留なしに二酸化炭素排出量を削減し、危険なレベルの温暖化を食い止めるのはきわめて困難かつ高コストであり、とりわけ重工業においては他の選択肢はほとんどない。また、世界各地で商業的プロジェクトの成功例は増えつつあり、鉄鋼や水素、肥料の工場での排出削減に貢献している。
以下のタラティ首席補佐官へのインタビューでは、気候変動対策において二酸化炭素貯留が果たすべき役割と、この分野の進展に向けて化石エネルギー・炭素管理局がどのように取り組んでいるのかを尋ねた。
なお、以下のインタビューは、発言の趣旨を明確にし、長さを調整するため、編集されている。
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——化石エネルギー・炭素管理局の職務を転換、あるいは拡張することが、なぜ重要なのですか?
気候目標、とくにネットゼロに関しては、二酸化炭素排出量の管理が果たす役割がますます大きくなってきています。すなわち、現在進行形の排出に対処するだけでなく、これまでに燃焼してきたあらゆる種類の化石燃料について、それに伴う二酸化炭素排出を管理しなければならないと認識しています。
部署名の改称によって、この2つの関連を強調することは、組織としてどのように職務にあたるか、また組織がどのように認識されるかという面で重要なのです。私たちは、環境負荷の軽減に関連するものでないかぎり、化石燃料に関するいかなる仕事もするつもりはありません。
——米国エネルギー省は、社会の脱炭素化と気候変動対策を進めるという広範な取り組みの中で、二酸化炭素の回収・貯蔵がどのような役割を果たすと考えているのですか?
再生可能エネルギーへの転換が可能な分野においては、そのような選択が望ましいでしょう。しかし、それができない場合は、二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS:Carbon Capture and Storage)がきわめて重要な役割を果たします。セメントなどの業界では、排出する二酸化炭素の回収にCCSが必要不可欠であると認識しています。
実際に必要とされるエネルギーに由来する排出二酸化炭素だけでなく、二酸化炭素の排出を回避する手段がないような製造プロセスで排出される分についても(CCSによる)回収が可能です。CCSは、脱炭素化が困難な多く …