KADOKAWA Technology Review
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主張:技術力に劣るタリバンがイノベーションで勝利した理由
AP Photo/Rahmat Gul
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The Taliban, not the West, won Afghanistan’s technological war

主張:技術力に劣るタリバンがイノベーションで勝利した理由

カラシニコフ銃、弾薬、ラジオといったシンプルな装備しか持っていなかったタリバンが、宇宙からの監視をはじめとする世界一流のテクノロジーを利用でき、火力、装備、資金で優勢な西側諸国に勝利したのはなぜなのだろうか。 by Mike Martin2021.08.26

多くの犠牲者が出るにもかかわらず、あるいはだからこそ、戦争ではしばしばイノベーションが起こる。ナポレオン戦争によって缶詰がもたらされ、アメリカ南北戦争では潜水艦の開発が推進された。一方、第二次世界大戦は、複葉機、突撃する騎兵隊、荷馬車で始まったが、レーダー、V2ロケット、ジェット戦闘機、原子爆弾で終わった(おそらく最も重要なことは、英国政府の暗号学校が置かれたブレッチリー・パークでドイツの暗号が解読されたことによって、コンピューティング革命が始まったことだろう)。

勝者は、技術的に最も進んでいる側であるということのようだ。新たな発明は、軍隊が変化していく状況に適応することを可能にする。新たなシステムはターゲットを追跡するのに役立ち、新たな武器は以前よりも効率的に敵を粉砕できることを意味する。

しかし、アフガニスタンは違う。技術的な進歩はあった。例えば、ドローン戦の進化などだ。しかし、米国と同盟国による進歩は、かつて見られたものほど顕著ではなく、一部の専門家が主張するほど重大なものでもない。実際、一般に語られているのとは反対に、20年にわたる紛争の間に起こった技術の進歩は、実際には西側諸国よりもタリバンを助けてきた。戦争がイノベーションによって戦われるのであれば、勝者はタリバンだ。

どういうことだろうか。西側諸国は最初から最後まで、ほぼ同じ方法で戦争をした。2001年の最初の空爆は、B-52爆撃機(1955年に初就航した機種だ)で実施され、2021年8月には、由緒ある同じ機種の航空機で、米国の駐留の終わりを告げる攻撃がなされた。

一方、タリバンはいくつかの大きな飛躍を遂げた。タリバンは、AK-47自動小銃などのシンプルな従来型の武器で戦争を開始したが、現在では携帯電話やインターネットを駆使し、武器や指揮統制システムを改善するだけでなく、さらに重要なことに、戦略的なコミュニケーションや影響力を高める作戦を実行している。

このように、技術的進歩の迫力に欠け、偏っているのはなぜなのだろうか。

「生き残りをかけた戦争」対「選択的な戦争(降りられる戦争)」

タリバンにとって、アフガニスタンでの戦争は生き残りをかけたものである。NATO(北大西洋条約機構)諸国からの数十万の外国軍兵士に直面し、地上や空から追跡され、生き残るために適応しなければならなかった。戦闘装備の大部分はシンプルで維持しやすいものであり(多くの場合、カラシニコフ銃、弾薬、ラジオ、ヘッドスカーフ程度)、新たなテクノロジーを他の反政府組織から調達したり、独自に新たなテクノロジーを開発したりしなければならなかった。

重要な例の一つに、路上爆弾、または即席爆発装置(IED:Improvised Explosive Device)が挙げられる。これらの単純な兵器は、他のどの兵器よりも多く連合軍の死傷者を出した。もともとは地雷のように圧力板で作 …

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