可決でも茨の道、「クリーンエネ8割」迫る米予算案への期待と不安
米上院は「クリーン電力報酬プログラム」の予算案の可決に向かっている。電力会社が販売する電力全体にカーボンフリー電力が占める割合を増やすことを狙ったものだ。政治的実現可能性を高めるために採ったこのアプローチには期待がある一方、狙い通りに目的を果たせるかどうか不安もある。 by James Temple2021.09.01
今後数週間のうちに、米連邦議会は米国史上最も重要な気候政策のひとつを可決するかもしれない。
この3.5兆ドルの予算計画には、「クリーン電力報酬プログラム(Clean Electricity Payment Program)」と呼ばれる予算案が入っている。クリーン電力報酬プログラムは、報酬と罰金を活用して、電力会社が毎年販売するすべての電力のうち、カーボンフリー電力の割合を増やすことを狙ったものだ。期待通りに事が進めば、この法律によって電力部門は2030年までに、総発電電力のうち80%を風力、太陽光、原子力発電所などの電力源から生成し、温室効果ガスの排出量を年間10億トン以上削減することが確実になる。
法案は、ジョー・バイデン大統領が掲げる野心的な気候計画の基本的な一歩となるであろう。バイデン 大統領の計画では、2035年までに発電による気候汚染を排除し、今世紀半ばまでに経済全体における二酸化炭素排出実質ゼロ(ネットゼロ)を達成すべく、米国を軌道に乗せることを目指している。
しかし、クリーン電力報酬プログラムによってその積極的な目標が達成できるどうかについては、現実的な疑問が存在する。米国内の複雑な電力部門が実際にどのように対応するかは、プログラムを実行に移す監督官庁がどのように制度を設計するか、特に報酬と罰金の条件をどのように設定するかに大きく依存すると経済学者は指摘する。
また、この法案が現状と似通った形で可決されるのか、あるいはそもそも可決されるのかは、依然として不透明だ。
プログラムの仕組みは?
クリーン電力報酬プログラムは、多くの州が導入している「クリーン電力標準」という規制に変更を加えたものである。クリーン電力標準は、特定の年までに一定レベルのクリーン電力に到達することを電力会社に求める規制だ。クリーン電力報酬プログラムでは、主に拘束力のある義務ではなく、報酬と罰金の仕組みを選択している。これによって、財政調整措置と呼ばれる立法プロセスでの可決が可能となり、上院での単純過半数での採決のみで成立できるからだ。現在、上院では民主党と共和党が議席を50ずつ分け合っている。同点決選投票でカマラ・ハリス副大統領が賛成票を投じれば51票。これで過半数を取れる。
環境団体「クリーンエア・タスクフォース(Clean Air Task Force)」の分析によると、このプログラムでは、電力会社が年間に供給・販売する総電力量のうち、クリーン電力が占める目標比率を毎年定める。クリーン電力が占める比率が目標を超えると超過分のメガワット時ごとに報酬を受け取り、目標に達しない企業は罰金を支払うことになる。
プログラムでは、すべての電気事業者が同時に同じ目標に到達することを要求していない。それぞれの事業者の開始時の状況に応じて、年間目標は調整される。しかし、全体としての目標は、米国の電力部門が今後9年間のうちに、平均して電力の80%をクリーンな資源から調達することだ。
ミネソタ州選出のティナ・スミス上院議員は、エネルギー省が監督官庁となる可能性が高いこの法案を推進する一人だ。
この予算案には、よりクリーンな発電設備の建設に対する連邦税制上の優遇措置も含まれている。ワシントンD.C.の中道左派系のシンクタンクであるサードウェイ(Third Way)によると、それら税控除を含めると、プログラムの予算は約1500億ドルから2000億ドルになるという。
まとめると、この政策パッケージは、「米国がこれまでに制定した中で最も金額的に大きく、最も野心的な気候・クリーンエネルギー政策」になると、サードウェイの気候・エネルギープログラムの責任者であるジョシュ・フリードは述べている …
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