世界最高レベルの天文台は主に、西半球に存在する。ハワイのマウナ・ケア山頂やカナリア諸島のラ・パルマ島、チリのアタカマ砂漠、セロ・パラナル山頂といった高地にあるのだ。ところが、東半球にも大空が一望できる手つかずの場所がある。チベット高原だ。現在、中国の天文学者らによるチームが、「世界の屋根」と呼ばれるアジアの地域の一翼を担っているチベット高原での天文台建設に向けて、積極的な主張を展開している。
研究チームは、天文台建設の候補地と目する、青海省冷湖に近接する賽甚騰山の山頂付近の可能性を説く新たな論文を、8月18日付けのネイチャー(Nature)誌で発表した(冷湖は、中国が1951年に最初に併合してから政治的な緊張が続くチベット自治区に隣接する)。
標高4000メートル以上の高地に位置する冷湖は「尋常でないほどに澄み切った空を眺望できる場所として知られています」と、中国科学院の科学者であり、同論文の共著者でもあるリーチャイ・デン教授は語る。「同時に、冷湖地域は火星に似た壮観な見晴らしが利きます」。天文学や地理に興味のある旅行者を惹きつけることに熱心な地元政府が同教授の研究チームを雇い、当該地域を調査させ、天文台の建設地として相応しいかどうかを見極めさせたという。
天文学の研究に適している場所であるかどうかを判断する上で、大きく分けて4つの要素が影響してくる。1つ目は、明瞭な空を眺望しやすいかどうかである。密な雲の形成がなく、光害がほとんどないことが望ましい。2つ目は、当該地域の大気と気象が安定しているかどうかだ。夜間の光学観測および赤外線観測に、大気がどんな影響を与えるかということだ(空気中の微粒子ですら観測に干渉してしまう可能性がある)。第3は、候補地が電力などのインフラに接続されており、さほど苦労せずに行き来で …