世界が結束して制定した国際条約の中には、地球温暖化の防止が推進目標ではなかったにもかかわらず、地球温暖化をかなり防いだものがある。
1987年、数十カ国がモントリオール議定書を採択し、冷媒や溶剤などの工業製品に使用され、有害な紫外線から地球を守るオゾン層を破壊していたクロロフルオロカーボン(一般に「フロン」と呼ばれる)などの化学物質を段階的に削減することに合意した。
これは画期的な成果であり、環境に対する複雑で共通の脅威に直面していた国々が協力することに最も成功した例だった。30年後、大気中のオゾン層は徐々に回復し、がんや目の障害などの健康被害を引き起こす紫外線の増加を防いでいる。
しかし、最終的にすべての国が批准したこの協定の効果は、オゾンホールへの影響以上に広範囲に及んでいる。使用が削減された化学物質の多くは、強力な温室効果ガスでもある。そのため、直近の30年間にわたってそうした化学物質が削減されたことで温暖化はすでに緩和されており、協定がなかった場合に比べると、2050年までに世界の平均気温を1℃下げられるかもしれないという大きな副次的効果があった。
8月18日にネイチャー(Nature)誌に掲載された新たな研究は、偶然とはいえ、モントリオール議定書がもたらした別の重要な効果を明らかにした。太陽からの紫外線が植物に与える負担を減らすのだ。紫外線は植物の光合成を阻害して成長を遅らせる影響がある。エクセター大学の気候科学上級講師であり論文の共同執筆者であるアンナ・ハーパー博士は電子メールで、モントリオール議定書により、大気中に数千億トンもの炭素を放出したであろう「森林や農地の壊滅的な崩壊」が回避できたと述べている。
ハーパー博士らの論文によると、もしオゾン層破壊物質の生産量が毎年3%ずつ増え続けていたとしたら、紫外線の増加によって、世界中の木、草、シダ、花、作物の成長が抑制されていた可能性があるという。
そうした事態になっていたら、世界中の植物が吸収する二酸化炭素の量は減り、今世紀中に6450億トンもの炭素が陸地から大気中に放出される。その結果、同じ期間に地球温暖化が最大1℃進んだ可能性がある。また、地球上の農業生産高や食料供給に壊滅的な影響を与えただろう。
研究者らは、フロンの濃度上昇による植物への影響と、フロンが大気を温暖化する直接的な影響により、21世紀中に気温が約2.5℃上昇する可能性があったことを明らかにした。2100年についてすでに出ている悲惨な温暖化予測に加えてだ。
この論文の別の執筆者であるランカスター大学(Lancaster University)の気候科学者であるポール・ヤング博士は、「モントリオール議定書は、もともとはオゾン層保護を目的とした条約でしたが、大きな成功を収めた気候条約となっています」と述べる。
これらのことから、疑問が生じる。なぜ世界は、気候変動に明確に対処することを目的として、同じように積極的で効果的な国際条約を制定できないのだろうか? 少なくとも一部の学者は、 …