新型コロナ「デルタプラス」はデルタ株よりも危険を意味するか?
新型コロナウイルスの「デルタプラス」の症例が世界各国で見つかり、人々を不安に陥れている。しかし、誤解を招きかねないこの俗称は、命名法の混同に由来するものだ。デルタ株より危険だという証拠は今のところない。 by Cat Ferguson2021.08.16
「デルタプラス」という新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の株についての最新の報道を見て不安になった人は、科学者がデルタ株系統の変異株を4から13に拡大したと聞くと仰天するかもしれない。
しかし、落ち着いてほしい。科学者によると、デルタ株が新たな能力を獲得したという証拠はなく、デルタプラスという新しい名前は新型コロナウイルス進化の追跡を助けるために付けられたものなのだ。パニックの原因がさらに9つ増えたわけではない。そして多くの研究者は「デルタプラス」と呼ぶのを、本当にやめてほしいと切望している。
「デルタプラスという名前が完全に間違っているのは、より深刻な被害をもたらすと思わせてしまうからです」。B.1.1.7のような科学的な名前をウイルス系統樹の新しい枝に割り当てているパンゴ系統指定委員会(Pango Lineage Designation Committee)のアンダーソン・ブリトー博士はそう語る。「今のところ、突然変異株のどれ一つとして、元のデルタ株と比べて異なる振る舞いを示す証拠はありません」。
新型コロナウイルスを木にたとえると考えやすいだろう。デルタ株はその木から延びる太い枝のようなもので、 共通の祖先をもつウイルスの大きな一族だ。この一族に属するウイルスはいくつかの突然変異を共有しており、急速な感染の広がりを起こす。太い枝からは常に小枝が生えてくるが、その度に科学者は数字とアルファベットからなる科学的な名前を使って管理する。だが、新たな科学的な名前が付いたからといって、そのウイルスが元の枝と異なる振る舞いをするとは限らない。新たな枝の一つが振る舞いを変え始めたら、「プラス」ではなく新たなギリシア文字が付けられる。
なお、デルタ株の突然変異の一部は感染力を高めているが、それでもワクチンは既知の全ての新型コロナウイルスで重症化を避ける高い能力があるということは指摘しておきたい。
名前に何が含まれているのか?
命名に関する混乱の多くは、ジャーナリスト(とその科学的な情報源)が、新型コロナウイルスの進化の追跡に広く用いられている2つの命名法を混同していることに起因する。実際には、これら2つの命名法は全く異なる戦略と目標を持つ。
最初のデルタ株に付けられたB.1.617.2という科学的な名前は、アルファベットと数字による命名法で、パンゴと呼ばれる(命名に使用するソフトウェアの名称「PANGOLIN(Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak Lineages)」に由来する)。この名前は、ウイルス遺伝子の小さな変化を追跡する研究者が使うためのものだ。新しい系統が人々に対して異なる振る舞いをするかどうかの判断は入っておらず、分子レベルで違いがあるかどうかだけだ。現在1300以上のパンゴ系統があり、そのうちの13がデルタ株系統に属していると見なされている。
一方、デルタという名前は、一般大衆向けにゲノミクスを単純化するために用いられている世界保健機関(WHO)の命名法に由来する。特に注目すべき必要があると認められる場合、WHOは関連するコロナウイルスの一連のサンプルに対して名前を与える。ギリシア文字の付いた科は現在8つあり、最初のデルタ株から生まれた新しい系統が、親株とは異なる振る舞いを示している証拠が見い出されるまで、全部まとめてデ …
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