カメレオンは昔から適応の象徴だ。皮膚の下に虹色素胞という特殊な細胞の層を持ち、それを調整して周囲の環境に溶け込む能力があるからだ。
2021年8月11日のネイチャー・コミュニケーションズ誌に、韓国の研究者が本物のカメレオンを真似る能力を持つカメレオンロボットを作り出し、人工カモフラージュの新テクノロジーの道を開いたという新たな論文が掲載された。
研究チームは、カラーセンサーと銀ナノワイヤーで出来た微小なヒーター、温度によって色を変える性質を持つサーモクロミック材料を利用して、複数の高解像度の皮膚模様の再現に成功。ほぼ一瞬で色を変化させる能力をロボットに持たせられるようにした。
人工カモフラージュに対するこれまでの試みは、マイクロ流体装置に頼る場合が多かった。微小な流路で内部の液体の流れを制御するというものだ。しかし、今回のプロジェクトでは完全に電気的な手法を用いている。
この論文の著者の1人であり、ソウル大学校工科大学機械工学部で熱工学を研究しているコ・スンファン教授によると、色の変化速度を自然のカメレオンと同様の速度に上げることが最も難しかったという。非常に速く温度を上げることができるナノワイヤー・ヒーターを利用することで問題を解決。人工皮膚の温度をすばやく上昇させ、本物の生物と同等の速度で色を変えられるようになった。
「最初の試作品を作るのには非常に時間がかかりました」とコ教授はそう語る。最初のステップは、ロボットのモデルを何にするかを決めることだ。脊椎動物(背骨を持つ動物)にするか、それともイカやタコのような無脊椎動物にするかといったことだ。無脊椎動物をモデルにした方が動きにより自由度を持たせることができる。そのため研究チームは最初、タコを模倣する計画を立てた。しかしコ教授によると、そのアイデアは「野心的過ぎる」ことが判明したという。
さまざまなデザインや材料構造を検討した結果、最終的に研究チームはカメレオン自体のシンプルな形に取り組むと決めた。ナノワイヤーを点や線や鱗形で構成されたシンプルな模様の形にすることで、この映像で見られるような複雑な効果を作り出すことに成功した。
人工カモフラージュに対する以前の研究は軍事目的に関連付けられることが多かったが、コ教授は、研究成果が特に輸送、美容、ファッションなどの分野で幅広い影響を与えると期待している。将来的には、例えば色を調整して目立たせることができる自動車や、色を変えられる服などに応用できるそうだ。
コ教授は「このカメレオン皮膚の表面は、つまり一種のディスプレイ(表示装置)なのです」と言う。「柔軟性と伸縮性を持つディスプレイに応用できます」。
しかし、このテクノロジーは温度に依存しているため、極端に寒い場所ではあまり機能しない。人工カメレオンがあらゆる色を表現することが難しくなってしまう。
パデュー大学で生物の機能を模倣したロボット工学を研究しているラムセス・マルティネス助教授は、生物学的な影響を受けたシステムを新しいテクノロジーに転用することで、例えば地震が発生した際に生存者の位置を特定するシステムなど、さらなる可能性を開くだろうと指摘している。