KADOKAWA Technology Review
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誰にとっても優しい場所
「フェミニストのネット」を
模索する試み
Ina Jang
倫理/政策 Insider Online限定
A feminist internet would be better for everyone

誰にとっても優しい場所
「フェミニストのネット」を
模索する試み

インターネットは今や、嫌がらせや憎悪、性差別に満ちた空間となっている。女性に優しい原則に基づいた「フェミニストのインターネット」を実現できれば、女性だけでなくすべての人にとって優しいものになるだろう。 by Charlotte Jee2021.08.26

今より少し未来、2025年4月13日の話をしよう。ほとんどの17歳の女の子と同じように、メイジーは朝起きるとすぐスマホを手に取る。そして毎朝同じ順番でアプリをチェックする。ハード(herd)、シグナル(Signal)、ティックトック(TikTok)だ。

ハードは女の子向けのニッチなSNSとして始まったが、最近では男の子でさえみんなこれを使っている。メイジーは自分の個人ページを表示してピン止めしたものを見る。自分の犬や家族、学校の理科研究の写真。好きなものを全て1か所に集めたデジタル・スクラップブックみたいなものだ。友だちからのコメントを読み、友だちが自分のページに追加したものを見る。フェイスブックやツイッターはあまり見ない。こういうのをまだ使っているのは、おじいちゃんやおばあちゃんだけだ。ハードは、なんと言うか、そういうのよりはいいのだ。「いいね」機能も、フォロワー数の集計機能もない。知らない人がうるさい書き込みをすることもない。

メイジーはシグナルをチェックする。2023年にワッツアップ(WhatsApp)がより多くのデータをフェイスブックと共有すると発表し、ユーザーがセキュリティに優れ暗号化されたSNSを求めて逃げ出した「ワッツアップ大脱出」以来、シグナルは人気となった。

次はティックトックだ。メイジーは女の子たちが踊る動画を見ると、画面をスワイプし、猫がジャンプして輪をくぐるのを見て、またスワイプし、火山の説明を読む。ティックトックは最近あまりデータを収集せず、居場所やキー入力は監視されていない。米国の議員が3年前に巨大テック企業のロビー活動に打ち勝って成立させたデータ保護法のおかげで、そういったデータ収集の多くが今では違法となっている。

もう時間がない。学校に行く支度をしなしなくちゃいけないが、インスタグラムをチェックしようと思う。最近男の人から変なメッセージが来たけれど、このアプリの簡単な機能を使ってクリック1つでこのことを報告したから、もうこの男からメッセージが来ることはないので安心だ。インスタグラムはここ2〜3年で、嫌がらせをずっと深刻な問題だと捉えるようになった。オンラインの時間を過ごす場所には、たくさんの競合や選択肢がある。気分良くなれない場所に留まっている人はいない。

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ここに示した、嫌がらせやヘイト、女性差別のないインターネットというビジョンは、特にあなたが女性なら、現実離れしたものに思えるかもしれない。だが、小さいけれど成長しつつある活動家のグループは、女性のニーズを結果論として扱うのではなく中心に据えて、オンライン空間を再考する時が来たと確信している。活動家たちは、テック企業に自社のSNSプラットフォームをきっぱりと無毒化させることを目指し、女性に優しい原則に基づき、ゼロから作った全く新しいSNS空間を立ち上げようとしている。これが「フェミニストのインターネット」という夢だ。

テクノロジーは善の力だという考えを大多数が放棄してしまった世界では、この運動は甘い考えに見えるかもしれない。だがフェミニストのインターネットのいくつかの側面はすでに形になりつつある。このビジョンを実現するためには、Webの仕組みを根本的に見直す必要があるだろう。だが、もしフェミニストのインターネットが実現したら、それは、女性にとってだけではなく、あらゆる人にとって良い場所となるだろう。

憎悪を数値化する

『去勢された女(原題:The Female Eunuch)』はフェミニズムの基礎となった書物のひとつだ。その中で著者のジャーメイン・グリアは「男が女をどれほど憎んでいるかを、女はほとんど知らない」と1970年に書いた。

アルメニアの新聞に執筆するアゼルバイジャン人のジャーナリストであるアルズー・ゲイブラが語るように、インターネットのおかげで、今ではそのことが嫌というほど分かる。

ゲイブラは、祖国に対する「裏切り者」と見なされ、ネット上で荒らしの標的になった(アゼルバイジャンとアルメニアは長年にわたって敵対意識を持ち、これが昨年になって戦闘状態へと発展した)。ゲイブラに初めて殺害の脅迫があったのは2014年で、何日にもわたり暴力的で性差別的なオンライン嫌がらせを受けた後のことだった。「お前の命はあと3日だと言われました。死体をどこに埋めるということまで言われました」とゲイブラは言う。

嫌がらせが一層ひどかったのは自分が女性であるからだ、ということもゲイブラにはわかっている。

「言葉がぜんぜん違います」とゲイブラは言う。「主なテーマは私の体に危害を加えることと罰を与えることです。やつを集団レイプしろ、追い出せ、撃ち殺せ、黙らせろ、口を塞げ、吊るし首にしろといったメッセージが並ぶのです」。

女性は常に、ネット上での嫌がらせを特に受けやすい立場に置かれ続けている。女性が攻撃されるのは単に言動のせいではなく、ジェンダーのせいだ。有色人種やLGBTQ+の人々、政治家やジャーナリストなど公衆に顔を知られる仕事の人なら、事態はもっと深刻になる。毒々しい言葉のほとんどに、同じ性差別のメッセージが流れている。「黙れ、さもないと…」。

仕事、遊び、健康、デートなど多くの活動がバーチャル環境に引きずり込まれた今回のパンデミックで、この問題はより悪化した。英国の慈善団体であるグリッチ(Glitch)の調査によると、調査対象の女性とノンバイナリー(自らを男性・女性のどちらでもないと認識している人)の半数が、昨年にネット嫌がらせの経験があったことを報告した。圧倒的多数はツイッターでのものだった。ピュー研究所(Pew Research Center)の最近の報告書では、35歳未満の女性の33%がネット上で性的な嫌がらせを受けたことがあると分かった。2017年にはこの数字は21%だった。

嫌がらせが組織的な運動の一環として実施されることもある。「マノスフィア(manosphere)」の登場だ。この非公式な用語は、フェミニストと女性一般を攻撃することに特化したWebサイトやオンライン・グループのゆるやかな集まりを指している。

怒れる男たちはレディット(Reddit)や4チャン(4Chan)のようなフォーラム、「ア・ボイス・フォー・メン」のようなWebサイトに集まる。時々、男たちはネット荒らしの標的を定めて合意する。2014年に起こった「ゲーマーゲート(Gamergate)事件」と呼ばれる論争のときには、ビデオゲーム産業で働く数人の女性が組織的なドキシング運動(電話番号や住所のような個人情報を探し出して投稿する攻撃)にさらされ、レイプや殺人の脅迫が集中砲火のように浴びせられた。

マノスフィアは抽象的でバーチャルな脅威ではない。実世界に影響する可能性がある。トロントで2018年に銃を乱射して女性1人と少女1人を殺害し、14人を負傷させたファイサル・フセインは、実行に移す前の数時間をマノスフィアで過ごし、急進的な思想を煮えたぎらせた。フセインのコンピューターから警察が発見したのは、エリオット・ロジャーの声明文のコピーだった。この男もマノスフィアに深く没入し、2014年にカリフォルニア州アイラビスタで凶悪な殺人事件を起こした。ロジャーは犯行声明文で、自分を拒絶した女性に報復し、性交経験のある男性を嫉妬から攻撃するのだと述べた。

「ネットの世界で女性であるということは、非常に目立つ存在であり、憎悪の直接の標的となることです」。そう語るのは、テクノロジー政策専門家で、オープン・ライツ・グループ(Open Rights Group)の元代表であるマリア・ファレルだ。

「私が初めてレイプや殺しの脅迫を受けたのは2005年のことでした」とファレルは言う。ファレルはハリケーン・カトリーナへの米国の対応が人種差別的だという批判をブログに投稿したところ、嫌がらせが殺到した。あれから状況は悪化したとファレルは言う。「10年かそこら前なら、何か批判を招くようなことを言うと嫌がらせがありましたが、今は違います。嫌がらせが日常なのです」。ファレルはどのサービスを使うか極めて慎重になっており、自分の位置をネットで共有しないように細心の注意を払う。

だが、女性に偏って影響するオンラインの問題は、殺しの脅迫とネット嫌がらせだけではない。アルゴリズム差別のように、それほど明白ではない害もある。例えば、「school boy」と「school girl」という言葉をグーグル検索してみるといい。男子の画像検索結果はほとんど害のないものだが、女子の結果は圧倒的に性的な画像で占められる。グーグルが検索結果のランク付けの基にしているのは、画像が現れるWebページ、代替テキストやキャプション、画像認識アルゴリズムが検出した画像の内容などの因子だ。バイアスは2つのルートを通って入り込む。ひとつは、画像認識アルゴリズムそのものがインターネットから取ってきた性差別的な画像やキャプションで訓練されていること。もうひとつは、女性について語るウェブページやキャプションが、何十年ものオンライン生活で蓄積し隅々まで行き渡った性差別で歪められていることだ。要するに、インターネットは自己強化する女性差別マシーンなのだ。

何年にもわたって、フェイスブックはセックスやヌードの気配がある画像を検出し、除去するよう機械学習システムを訓練してきたが、このアルゴリズムは過剰に厳しく、プラスサイズの女性や、赤ちゃんに授乳している女性の写真まで検閲してしまうことが繰り返し指摘されている。フェイスブックがこうした取り組みをしていたのと同時に、自社プラットフォーム上でヘイトスピーチを野放しにしていたという事実を、活動家は見逃さない。「シリコンバレーの男たちにルールを作らせるとこうしたことが起こるのです」と、ロンドン大学シティ校でバイアスのあるアルゴリズムについて研究するカロリーナ・アーレ客員講師は言う。

どうしてこうなったか

この記事を書くために私が話を聞いた女性はみんな、ここ数年で嫌がらせを受ける量が増えたと語った。主な原因のひとつは、ソーシャルメディア・プラットフォームの設計、特にそれを支えるアル …

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