「1兆ドル計画」でも足りない、米国の次世代送電網は実現できるか?
米国では太陽光、風力、地熱といった再生可能エネルギーを活用した発電が盛んだ。しかし、立地や天候に左右される再生可能エネルギーを普及させるには、地域ごとに分断されている電力系統を統合した相互送電網を構築する必要がある。 by James Temple2021.08.17
気候変動に対処するための効果的な計画は必ず、高い塔を結ぶ長い電線という基本的なテクノロジーの影響を受ける。
米国では、今後数十年で何十万キロメートルもの送電線を増設し、地域ごとに分断されている電力系統を統合し、再生可能エネルギーの大量導入に対応できる相互送電網にしていく必要がある。
短距離の引き込み線と長距離の高圧線で構成される全米統一の電力網は、風力、太陽光、水力で発電した電力を、必要なときに必要な場所に届けることができる。熱波や大雪などの影響で地域的な電力不足が発生した時に信頼性の高い非常用電源を提供し、家庭や企業で自動車や暖房などの電化が進む中で急増する電力需要に対応するのにも役立つだろう。
この壮大な構想には、大きな問題点がいくつかある。まず、必要な送電線の敷設には、この10年間だけでも数千億ドルの費用がかかる可能性がある。プリンストン大学が主導した研究では、米国が今後9年間で必要な送電容量を確保するためには、さらに3500億ドルが必要になると指摘している。これは、2030年までに米国の電力の半分を風力と太陽光で供給し、今世紀半ばまでに二酸化炭素排出量ゼロの達成を目指す前提での話だ。
仮に政府や企業が必要な資金を確保できたとしても、全米の州や郡、市、町が多数の送電線の新設を速やかに承認する必要があるという、さらに厄介な問題が待ち受けている。また、米国ではこのような複数の州にまたがるプロジェクトの許可を得ることは困難だ。
安価でクリーンなカナダの水力発電、グレートプレーンズの風力発電、および南西部のさまざまな再生可能エネルギーの組み合わせから得た電力を供給する一連の試みは、何年にもわたる法廷闘争に巻き込まれ、却下されてきた。その理由の多くは、電線が自分たちの土地を通ることに難色を示した地域があったためだ。建設が決まった大規模な送電網プロジェクトでさえ、承認を得るまでに10年かかることもある。
しかし、ようやく救いの手が差し伸べられるかもしれない。現在、超党派の支持を得て米上院で進められている約1兆ドルのインフラ法案では、送電線に数十億ドルの資金が割り当てられている。また、プロジェクトの承認に関する連邦政府の権限を強化・明確化することで、資金以上に重要となる条項も含まれている。
しかし、このインフラ法案は、必要となる投資や許認可の変更のためのわずかな一歩に過ぎない。
3つに分断されている全米の送電網
米国には送電網の統一システムは存在しない。送電システムは3つに分断されている。大部分は20世紀半ばに建設されたもので老朽化が進み、州やそれより広い地域間で電力をやり取りする能力は十分ではない。電力需要が最も大きい大都市から発電所までは何百キロメートルも離れていることもあり、これは問題だ。
孤立した送電網では、発電量が変動する太陽光や風力などの電力源から得た電力をある程度の距離までしか送れず、出力の一部が無駄になる。そして風の強い晴れた日には、発電量が地域の電力需要を上回り、卸売価格が下落する(太陽光や風力を使った発電量の割合が高まるにつれ、この現象はますます悪化している)。このようなときでも、カリフォルニア州では真夏の日中に太陽光発電で得た余剰電力を中西部に送ることはできない。西海岸で太陽が沈み始めたときに、オクラホマ州などの風力発電から安定供給を得られる電力を利用することもできない。
しかし、送電網を全米で統合すれば、事業者ははるかに広い地域から最も安価な電力を入手でき、需要の高い場所にそれを届けることができると、米国立再生可能エネルギー研究所(NREL:National Renewable Energy Laboratory)の常任理事であるダグ・アレントは指摘する。つまり、ワイオミング州 …
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