米国初、ニューヨーク市で屋内施設利用時のワクチン証明が義務化
ニューヨーク市は、各種屋内施設を利用する際には新型コロナワクチン接種証明を義務付けると発表した。9月13日以降、バーやレストラン、ジムなどを利用する際には、ワクチンを少なくとも1回接種した証明を提示する必要がある。 by Lindsay Muscato2021.08.07
ニューヨーク市は8月3日、米国の都市では初めて、市内の各種屋内施設を利用する際に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの接種済みであることの証明を義務付けると発表した。
ビル・デブラシオ市長は記者会見で、同市では9月13日以降、バー、レストラン、ジムなどの屋内施設を利用する際にはワクチン接種証明を提示する必要があると述べた。この「キー・ツー・NYCパス(Key to NYC Pass)」(やや混乱するが、これは実際のパスポートではなくプログラムの名前だ)は、ニューヨーク市全体で新型コロナウイルスの感染者数が増加している中で、より感染力の強いデルタ株への一連の対応策の一部となっている。 ニューヨーク市の成人の約66%がワクチン接種を完了しており、行政関係者は今回の新たな義務付けがより多くの人々のワクチン接種を促すことを期待している。つい先日、感染率がかなり高い、または高いと認定された地域(ニューヨーク市もこれに該当する)における新たな屋内マスク着用ガイダンスを米国疾病予防管理センター(CDC)が公開し、今回の発表はそれに続く形となった。
広範囲にわたる今回の計画には、100ドルのデビットカード進呈といったワクチン接種のインセンティブも含まれている。「全ての人に、今がその時なのだと納得してもらうことが目的です」とデブラシオ市長は述べた。
ニューヨーク市では9月13日以降、ブロードウェイの舞台を観たり、屋内のレストランで食事をしたり、ジムを利用したりする場合に、新型コロナワクチンを少なくとも1回は接種したことの証明を示す必要がある(食料品店などの生活必需品の販売店では不要)。証明として認められているのはニューヨーク州の「エクセルシオール・パス(Excelsior Pass)」(さまざまな不具合や公平性への懸念が指摘されてきた)のほか、ニューヨーク市が新たに公開したアプリ「NYCコビッド・セーフ(NYC Covid Safe)」などがある。CDCが発行している証明カードも対象となっている。証明義務は客と従業員の両者に適用される。
詳細については詰めきれていない点もある。例えば、まだワクチン接種が認められていない12歳未満の子どもたちがキー・ツー・NYCパスの計画においてどのように扱われるのかは不明だ(デブラシオ市長は、8月中旬にさらなる情報を公開すると述べている)。店舗の経営者や従業員が、来店者全員を確認するという重責にどうやって対応すればいいのかということも分からない。ニューヨーク市ホスピタリティ・アライアンス(NYC Hospitality Alliance)は声明を発表し、今回の新たな義務付けは、「一部の人々にとって非常に難しいステップであり、議論を呼ぶものになるだろう」と述べた。これまで任意だった方針を義務化することを歓迎する企業もあるだろう。
州のアプリとは異なり、NYCコビッド・セーフは機能が少なく、ワクチン記録との直接的な繋がりはない。単純にワクチン記録の画像を保存しているだけである。米国ではワクチンのデータベースを国として一元化していないため、州外にワクチン記録が保存されている人にとっては使いやすいツールと言える。だが、監視テクノロジー監督プロジェクト(Surveillance Technology Oversight Project)のエグゼクティブディレクターとしてワクチンパスポートを研究しているアルバート・フォックス・カーンは、いくつかの欠点を指摘する。ニューヨーク市のアプリは基本的に画像を保存しているだけなのでほとんど何でもワクチン証明として認められてしまい、証明を偽造するのがあまりにも簡単になっている。「カメラの再発明に、当局が労力をつぎ込むことになるのは不可解です」とカーンは語る。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の情報を提供するエピセンターNYC(Epicenter-NYC)の創設者であるS・ミトラ・カリタは、デルタ株に対処するためには今回のような政策が必要かもしれないが、新しいテクノロジーによって、ワクチン接種者の数を増やすというより大きな目標から気を逸らされるようなことがあってはならないと言う。「ワクチン接種が無料だということを知らない人にいまだに出くわすことがあります」とカリタは話す。「アプリは重要です。しかし今の私たちには他にも必要なことがたくさんあります」。
より大きな見通し
ワクチンアプリやワクチン接種の義務化に関して、米国は茨の道を歩んできた。多くの州ではワクチン接種の証明義務を課すことを完全に禁止している。しかし大きな分断も起きている。サンフランシスコでは、数百軒のバーによる連合が、そのような証明を要求している。最近ではディズニー、グーグル、タイソンといった業種の異なる企業をはじめ、ワクチン接種を義務付ける雇用主が増えている。
フランスやイタリアといった国ではワクチン義務化に反発が起こっている。英国ではそのような動きについて議論されている。イスラエルは「グリーンパス」の利用を停止したが、後に再開している(エイダ・ラブレス研究所(Ada Lovelace Institute)が詳細なリストを公開している)。
ニューヨーク市の動きは、米国最大の地方政府が主導するイニシアチブであり、これが成功すれば米国の他の都市に道をひらく可能性がある。そうなれば、デブラシオ市長が望んでいるようにワクチン接種が促進されるかもしれない。あるいは、蓋を開けてみれば問題の方が多かったということになる可能性もある。一部の研究では、有給休暇を与えるといったような、よりベーシックなインセンティブの効果が指摘されている。
「市民テクノロジスト実践ガイド(A Civic Technologist’s Practice Guide。未邦訳)」の著者であるシド・ハレルによると、他のパンデミックに関するテクノロジーの介入と同じように、それが本当に人々の安全を高めることに寄与しているのかどうかを見極めるのは難しいという。ハレルは当初、ワクチンパスポートがある種のテクノロジー劇場になるのではないかと懸念していたという。だがデルタ株は考慮すべき要素を変えた。
「ワクチンパスポートが公衆の安全を高めるのかどうかという疑問に答えが出るまでは、完全に前向きにはなれません」ハレルはそう話す。「今やそれは劇場ではないかもしれません」。
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- MITテクノロジーレビューのパンデミック・テクノロジー・プロジェクト担当編集者。曝露通知など、新型コロナウイルス感染症対策にテクノロジーがどう活用されているかを取り上げている。以前は、より強力で代表的なジャーナリズムの構築を目指す「オープンニュース(OpenNews)」の編集長を務めていた。