2019年 12月20日は、米国の宇宙計画と宇宙産業、特にボーイングにとって画期的な瞬間となるはずだった。
ボーイングは、1958年に米国航空宇宙局(NASA)が設立されて以来、ずっとNASAのパートナーだった。ボーイングおよび同社が買収した企業は、アポロ宇宙飛行士を月に送るためのカプセルを製造し、後にはスペースシャトルを製造し、国際宇宙ステーション(ISS)の運営にも携わっている。2019年12月20日のその日、ボーイングは、新型宇宙船「CST-100スターライナー(Starliner)」を打ち上げる、無人のデモンストレーション・ミッションを実施した。スターライナーは、スペースX(Space X)の「クルー・ドラゴン(Crew Dragon)」とともに、NASAが宇宙飛行士を地球周回軌道へ送迎する際の有力な選択肢となるはずであった。
だが、そうはならなかった。スターライナーは宇宙へたどり着いたが、コンピューターの不具合により、実際にISSに到着することはできなかった。数日後、無事に地球に戻ってきたが、有人ミッションの準備ができていないことは明らかだった。
現在、ボーイングは、いちかばちかのやり直しをしようとしている。8月3日に実施されるオービタル・フライト・テスト2(OFT-2:Orbital Flight Test 、軌道飛行試験2)で、スターライナーを再びISSに送り込もうとしている。もう失敗は許されない。
「今回の飛行テストには信頼がかかっています」と、アリゾナ州立大学の宇宙政策専門家であるグレッグ・オートリー教授は言う。「人間を宇宙に送り込むシステムほど人の目を引くものはありません」。
7月30日の午後には、その注目度の高さをまざまざと思い知らされる事故が起こった。ロシアの新型多目的モジュール「ナウカ(Nauka)」(23トン)がISSにドッキングした後、制御コマンドを打っていないのに突然スラスターが噴射し始め、ISSが軌道上の本来の正常な位置からずれてしまったのだ。NASAとロシアは問題を修正し、1時間以内に事態を安定させたが、何が起こったのかはまだわかっていない。もし状況がより悪かったならどうなっていたかと考えると不安にさせられる。この事故全体は現在も調査中で、NASAはスターライナーの打ち上げを7月31日から8月3日に延期せざるを得なくなった。
ボーイングが8月3日の飛行試験や今後の有人ミッションで避けたいのは、まさにこのような大事故寸前になる事態なのだ。
スターライナーのこれまでの道のり
2011年にスペースシャトル計画が終了したことで、NASAは宇宙開発の取り組みを見直す機会を得た。地球低軌道へ行くことを目的とした新たな宇宙船を建造する代わりに、商業乗員輸送計画(Commerccial Crewe Program)の一環として民間企業に機会を提供することを選択し、ボーイングとスペ …