マウスには有効、トカゲには有効、イカには有効、有袋類には——有効。
クリスパー(CRISPR)は、トマトから人間に至るまでほぼすべての生物の遺伝子改変に使われてきた。しかし、有袋類は、生物学的に独特な生殖方法と研究室での使用が稀であることが理由で、これまで急速に進むCRISPR導入の波に乗ることはなかった。
日本の国立研究機関である理化学研究所で、オポッサムの南米種に対してCRISPRを使った遺伝子編集が実施された。日本時間7月22日、この新しい研究結果はカレントバイオロジー誌で発表された。有袋類のゲノムに手を加えることができるようになれば、生物学者は有袋類について理解を深めることができ、免疫応答や発生生物学の研究、さらにはメラノーマ(悪性黒色腫)などの病気の研究に利用できるようになるかもしれない。
「この論文を見てとても興奮しています。私が生きている間には実現しないかもしれないと思っていたような快挙です」と語るのは、テキサス大学リオグランデバリー校の遺伝学者であるジョン・ヴァンデバーグ教授だ(今回の研究には参加していない)。
有袋類の遺伝子改変の難しさは、CRISPRというよりは、有袋類が生物学的に複雑な生殖をすることに関係があると、今回発表された研究論文の筆頭著者である清成 寛博士は説明する。
有袋類としてはカンガルーやコアラのほうが知名度が高いが、有袋類を専門とする研究者が実験でよく使うのはオポッサムである。小さくて世話がしやすいためだ。今回の研究で使用されたハイイロジネズミオポッサムは、顔が白いキタオポッサムの近縁種であるが、体が小さく、有袋類に特徴的な「育児嚢(いくじのう)」という袋を持っていない。
理化学研究所の研究チームは、CRISPRを使って色素生成に関わる遺伝子を破壊した。この色素生成遺伝子をターゲットに選んだのは、実験が上手くいけば結果が一目瞭然となるためである。2つある染色体上の両方の遺伝子が破壊されていれば、オポッサムはアルビノ(白色)になり、1つだけが破壊さ …