フェイスブックが脳インターフェイスから撤退 短期的成果見込めず
フェイスブックは、脳の活動状態をウェアラブルな光学機器で測定して被験者の思考を読み取る研究を、短期的な成果が望めないため終了すると発表した。脳の解読用に開発したソフトウェアをオープンソース化するとともに、プロトタイプ装置を他の研究者に利用できるようにする予定だ。 by Antonio Regalado2021.07.19
2017年の春は、巨大テック企業が人の思考を読み取ることを目指すプロジェクトを公表した時期として人々の記憶に残るかもしれない。イーロン・マスクが、脳インターフェイスの新会社、ニューラリンク(Neuralink)を設立していたことが明らかになり、その数日後には、フェイスブックが秘密の特別研究チーム「ビルディング8(Building 8)」を公表した。ニューラリンクは何千もの電極を人の脳に埋め込む手法を開発しており、一方、フェイスブックは考えるだけで1分間に100語のスピードでテキストメッセージを送れるヘッドセットやヘッドバンドの開発を試みていた。
フェイスブックが目指したのは、実質現実(VR)で誰もが利用できる、手を使わないインターフェイスだった。元米国国防先端研究計画局(DARPA)の幹部で、当時ビルディング8のハードウェア部門を率いていたレギーナ・ドゥーガン博士は、「脳から直接テキスト入力できるとしたらどうでしょう」と問いかけた。「不可能だと思うかもしれませんが、皆さんが考えている以上に実現に近い段階にあります」。
そして、光学技術を利用して思考を読み取る「サイレント・スピーチ」インターフェイスを開発する「とてつもなくすばらしい」プロジェクトをフェイスブックが発表してから4年が経った今、答えが出た。同社は、消費者向けの脳の読み取り装置の実現はまだかなり先のことだとして、このプロジェクトを中止することにしたのだ。
フェイスブックはブログ記事の中で、このプロジェクトを打ち切り、代わりに、腕の筋肉の電気信号を読み取るVR向け手首装着型コントローラーの開発に焦点を当てると発表。「当社は、頭部に装着する光学的な脳コンピューター・インターフェイス技術の長期的な可能性を今でも信じていますが、当面の取り組みとして、より短期的に市場投入可能な別のニューラル・インターフェイス手法に集中することにしました」と説明した。
フェイスブックの脳タイピング・プロジェクトは、カリフォルニア州の病院での脳手術への資金提供や、頭蓋骨に光を照射できるヘルメットのプロトタイプ開発など、未知の領域へ進んでいった。そして、テック企業が個人の脳情報にアクセスすべきかどうかについての厳しい議論も引き起こした。しかし、フェイスブックは最終的に、この研究がすぐには製品に結びつかないと判断したようだ。
「私たちはこれらのテクノロジーについて実際的な経験をたくさん積むことができました」と語るのは、昨年までサイレント・スピーチ・プロジェクトを率いていた物理学者であり神経科学者でもあるマーク・シェビレ博士だ。シェビレ博士は最近、フェイスブックの選挙対応を研究する仕事に移った。「経験を積んだからこそ、消費者向けインターフェイスとして、光学技術を利用した頭部装着型のサイレント・スピーチ装置の実現には、まだかなり時間がかかると自信を持って言えるのです。たぶん私たちが予測していたよりも先でしょう」。
思考の読み取り
脳コンピューター・インターフェイスに大きな注目が集まっているのは、企業が思考で操作するソフトウェアを、マウスやグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)、スワイプ操作可能な画面と同じくらい重要な一大進歩と見なしているからだ。さらに、脳に直接電極を埋め込んで個々のニューロンに刺激を送ると、驚くべき結果が得られることはすでに実証されている。そのような「インプラント」を装着した麻痺患者は、思考による操作でロボットアームを巧みに動かしたり、ビデオゲームをプレイしたり、テキストを入力したりできる。
フェイスブックが目指したのは、こうした研究成果を、誰もが使える消費者向けテクノロジー、つまり着脱可能なヘルメットやヘッドセットに変えることだった。「脳外科手術が必要な製品を作るつもりは一切ありませんでした」とシェビレ博士は言う。SNS大手フェイスブックが抱える規制上の多くの問題をふまえて、最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグはかつて、同社が一番する必要のないことは脳を直接いじることであると語り、「それに関する議会公聴会はごめんだ」と冗談を言ったことがある。
実際、脳コンピューター・インターフェイスが進化するにつれて、大手テック …
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