反響定位(エコーロケーション)を使用する生物は1000種以上存在するが、数百万年の進化を経て、コウモリの脳は特に位置感覚が発達している。
7月9日にサイエンス誌で発表された新しい論文によると、コウモリが飛ぶとき、脳の中で記憶を司る海馬に位置する特殊な神経細胞である「場所細胞」が、進路を決める上で重要な自分の位置情報(現在だけでなく、過去や未来も)の処理を助けていることがわかった。
「この発見は直感的に理解できるものです。なぜなら、少なくとも私たち人間には、自分がどこに行こうとしているのか、あるいはどこに行ったことがあるのかを考える能力があるからです」。米カリフォルニア州にあるソーク研究所(Salk Institute)のプロジェクト科学者で、この論文の筆頭著者であるニコラス・ドットソンは言う。
ドットソンと論文の共著者であるカリフォルニア大学バークレー校のマイケル・ヤーツェフ教授(神経生物学・工学)は、無線神経データロガーと16台のカメラで構成されたモーション・トラッキング・システムを組み合わせて、6匹のエジプトルーセットオオコウモリを観察し、神経細胞の発火を記録するための2つの実験を実施した。
6匹のコウモリのうち数匹は音の反響を抑えるために黒いフォームタイプの吸音材で覆われた部屋で好きなように飛行させ、残りの数匹はエサ箱を置いた部屋に放ってエサを食べるよう仕向けた。幸運な1匹は、両方の環境で実験された。
研究チームは、コウモリの頭部に取り付けた数個のマーカーと脳に埋め込んだマイクロドライブを使うことで、神経活動のわずかな時間的変化を確認し、コウモリが新しい空間情報にどのように対応しているかを記録した。
好きなようにランダムに飛行したときでも、エサを食べに行くなど目的に向かった進路決定でも、コウモリは環境と移動した経路の両方について詳細な空間記憶を維持していることがわかった。また、コウモリが未来に自身がいるはずの位置についての空間認識を持っていることも実験で明らかになった。
「我々には、すべて同時に発火しますが、もっと大きな回路のさまざまな部分を示す神経細胞があります」とドットソンは説明する。「つまり、現在に限らず、過去や未来の位置を認識していることを表しています」。
この天然のGPSシステムを利用して自分の位置を時間軸に沿って把握できる能力は、餌の場所を探したり、外敵から逃れたりするのに役立つ。言い換えれば、コウモリが生き延びるために最も役立つ能力の1つである。
過去、現在、未来の経験をどの程度重視するかは、種によって異なる可能性があると研究は指摘している。例えば、「サルが木の枝から枝へジャンプしたり、人間が車を運転したり、スキーで高速滑降したりする」といった生死がかかる状況で生き延びるには、未来の情報が最も重要かもしれない。
アリゾナ大学コウモリ研究所の研究者であるメルビル・ウォルゲムスは、「コウモリが狩猟行動を成功させるには、現在と未来の両方を計画する必要があります」という。「これは人間の生活にも関連する脳のプロセスです」
人間以外の種を調べることは、長らく神経科学の特徴となってきた。コウモリの海馬を研究することで、ある種の病気が人間の脳にどのような影響を与えるのか、より深い洞察が得られるかもしれない。
例えばコウモリについてさらに詳しく研究することで、認知機能や記憶が徐々に失われていく「アルツハイマー型認知症」についての見方が変わるかもしれない。アルツハイマー型認知症の患者は、以前に数回通ったことがあるルートでも、直感的に進路を決めることが難しい。