技術で先行する日本の「グリーン水素」は世界の潮流に乗れるか
持続可能エネルギー

Can Japan's Green Hydrogen lead the global trend? 技術で先行する日本の「グリーン水素」は世界の潮流に乗れるか

世界各国がカーボンニュートラルに向けて、水素エネルギーを重要な選択肢とする中、日本もまたこの分野への投資を拡大している。日本は水素利用においては他国よりも技術面で先行しているが、その優位性を生かせるかどうかが問われている。 by Keiichi Motohashi2021.07.13

水素は、燃焼したときにCO2を発生しないクリーンな燃料だ。そのため、化石燃料に取って代わるエネルギーとして、世界的に注目されている。

日本は水素の利用においては、他国よりも先行してきたと言っていいだろう。2002年には燃料電 池自動車が商用化され、水素ステーションの設置も始まっている。また、現状では燃料こそ都市ガスやLPガスだが、住宅用燃料電池コージェネレーションシステム(エネファーム)の設置が進んでお り、将来的に純水素によるエネファームの普及も視野に入っている。

しかし、近年、欧米では急速なカーボンニュートラルに向けた動きによって、水素製造や水素利用の技術および設備の開発が加速している。これに対し、日本もまた、水素関連技術の開発への投資を拡大していく見込みだ。グリーン成長戦略として、政府はこの先10年間で3700億円の投資を決めている。

現在、水素のほとんどは天然ガスなどの化石燃 料を分解して製造されている。製造過程でCO2を発生させるので、化石燃料で製造された水素は気候変動対策とはならない。このような水素は「グレー水素」と呼ばれている。一方、同じ化石燃料由来の水素でも、発生したCO2を回収し貯留すれば、カーボンニュートラルな「ブルー水素」となる。そして、再生可能エネルギーの電気を使って水を電 気分解させて製造する水素が「グリーン水素」と呼ばれるものだ。

グリーン水素もブルー水素もカーボンニュートラルという点では同じであり、クリーンな水素としてまとめられる。再生可能エネルギーの普及に伴い有効な活用方法として期待される点、さらに化石燃料の資源国以外での製造が可能な点から、グリーン水素に対する関心が高まっているのだ。

世界各地で進むグリーン水素プロジェクト

欧州連合(EU)はグリーンリカバリー(復興基金案)において、さまざまなクリーンエネルギーの1つとしてクリーンな水素のインフラ構築も盛り込んでいる。中でもドイツは2030年までに5ギガワット、2040年までに10ギガワットのグリーン水素製造装置を整備するとしている。なお、10ギガワットの水素製造装置とは、10ギガワットの電気を利用して水素を製造する装置を意味する。実際にドイツのエッセンを本拠地とする電力会社のRWEは、北海に風力発電を設置し、10ギガワットの水素製造を目指す「Aqua Ventusイニシアティブ」といった水素関連のプロジェクトを進めている。

プラント建設も欧州各地で進んでいる。たとえば、アイルランドでは風力発電の電気を使った50メガワットの水素製造装置が2023年までに完成する予定だ。EUを離脱した英国でも、2020年のグリーン産業革命の10項目の1つとして水素が取り上げられており、最大5億ポンドを投じる計画だ。このうちほぼ半分に相当する2億4000万ポンドが水素製造装置に向けられる。オーストリアでも製鉄所向けグリーン水素の生産が「H2FUTURE」というプロジェクトですでに始まっている。

カナダでは、水力発電の電気からグリーン水素を製造する計画が注目されている。ケベック州の電力会社による88メガワットの水素製造装置が2023年に運用を開始する予定だ。またオーストラリアでは、太陽光発電を利用した水素製造計画が進められており、三菱重工や岩谷産業など日本企業も出資している。さらに、アラブ首長国連邦(UAE)では、800メガワットの太陽光発電を設置し、グリーン水素を製造した上でグリーンアンモニアに変換して輸出する計画が進んでいる。先進国以外では、南米のチリが再生可能エネルギーの拡大を進めており、2025年に5ギガワットの水素製造装置を整備し、2030年には世界一安価な水素を供給することを目標としている。

シーメンス・ガメサが最近発表したホワイトペーパーによると、2030年には陸上風力によるグリーン水素が、2035年には洋上風力によるグリーン水素が、いずれもグレー水素に対して十分な競争力を持つようになると予測されている。欧州を中心に、世界ではこのように、グリーン水素の商用化が急速に進んでいる。

福島水素エネルギー研究フィールド

もちろん日本でも水素関連技術の開発や商用化は進められてきた。中でもグリーン水素については、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2013年から、小規模施設による実証事業を実施しており、2016年からは国内2カ所で電気分解設備の大規模化に取り組んでいる。そのうち1カ所は山梨県における、東京電力ホールディングスや東レなどによる実証プロジェクト「H2-YES」で、2021年度から同施設で製造した水素を山梨県内の事業所への供給を開始する。

もう1つの実証プロジェクトは、「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」だ。参加企業は東芝エネルギーシステムズ、東北電力、東北電力ネットワーク、岩谷産業、旭化成となっている。

2016年から着手された本事業は、2018年にプラント建設を開始、2020年には設備が完成し、現在すでにグリーン水素を製造、供給している。最近では、2021年5月に富士スピードウェイで開催された24時間耐久レースにおいてトヨタの水素エンジン車の燃料として使用されたほか、ENEOSを通じて東京オリンピックの聖火リレーにもFH2R製のグリーン水素が使われた。

FH2Rでは、福島県浪江町に20メガワットの太陽光発電を設置し、この電力を使用してグリーン水素を製造している。水素製造装置の容量は10メガワットで、定格運転時に1時間当たり1200ノルマル立方メートルの水素を製造できる(1ノルマル立方メートル:1気圧、0°Cにおける体積1立方メートルに含まれるガスなどの量を表す)。1日運転した場合の水素製造量は一般家庭約150世帯の1カ月分の消費電力に相当する。FH2Rで製造された水素は発電や燃料電池自動車の燃料などに利用される(下図)。

本施設での実証試験の意義について、NEDOスマートコミュニティ・エネルギーシステム部ストラテジーアーキテクトとして、水素エネルギーの実用化に向けて研究を続けている大平英二氏は次のように話す。

「カーボンゼロを目指すにあたって、電力のゼロエミッションだけで解決はできません。再生可能エネルギーの余剰電力を水素に転換することによって、電力以外の分野でのカーボンゼロを推進できる上、需給バランスを調節することができます。再生可能エネルギーを余すことなく使い切るのか …

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