MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.4刊行に寄せて
MITテクノロジーレビュー[日本版]は『Vol.4/Summer 2021 10 Breakthrough Technologies』を7月12日に発売した。今号の狙いと主な内容を紹介する。 by MIT Technology Review Japan2021.07.12
2020年の年明けからほどなくして始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、突如として世界を大きな混乱に陥れた。都市が封鎖され、学校が休校になり、あらゆる日常生活の制限が続く中で、1年あまりが過ぎた。1年前、まさかこれほど広範な混乱状態がここまで長く続くとは、誰も予想していなかったはずだ。
たが、予想外だったことは他にもある。1つは新型コロナウイルスワクチンの完成である。専門家は過去の実績から、ワクチンの実用化には最短でも開始から1年半の期間が必要だとしていた。ところが実際にはパンデミックの発生から1年を待たず、2020年12月には英国でのワクチン接種が始まり、2021年6月現在、日本でも接種が本格化している。
ワクチンが驚異的なスピードで実用化された背景には、急速な感染拡大と、米国政府が「ワープ・スピード作戦」と呼ぶ巨額の投資を推し進めたことがある。だが、テクノロジーの観点で言えば、史上初めて、「メッセンジャーRNA(mRNA)」に基づく技術がワクチンの開発に用いられたことが大きい。数十年にわたる科学者たちの執念とも言える研究が結実した結果、人類はパンデミック収束への道筋をつけることができたのだ。
もう1つ予想外だったのは、「新しい生活様式」の一環として、あらゆる社会活動のリモート化が進んだことだろう。ワクチン接種が進むにつれ、オフィスに人を戻す企業も増えつつあるものの、ズームを使った会議や顧客訪問はすでに定着し、物理的な距離を問わずに仕事が進めやすくなった。ネット上ではバーチャル・イベントが連日開催され、スマホやタブレットを使った学習アプリもユーザー数を大きく伸ばしている。
振り返ってみると、2020年はこうした以前から「出番待ち」だったテクノロジーが、一気に花開いた1年だったと言える。人々が道具や方法を変えながらも、何とかして仕事や学び、遊びを維持し、生活を取り戻そうとしたとき、テクノロジーは実際に役に立ったのだ。
本書は、「ブレークスルー・テクノロジー 10」の2021年版特集号である。20年前に始まったMITテクノロジレビュー[米国版]の恒例の人気企画で、近い将来、世界に大きな影響を与えるであろう10の革新的なテクノロジーを各分野の編集者が選んで解説するものだ。
今年のリストには、前に挙げたようなパンデミックに関連したテクノロジーが入り、ある意味「世界を変える」というよりも、すでに「変えた」テクノロジーと言えるかもしれない。だが、世界の課題はそれだけではない。地球規模での気候変動への対応や社会的不平等の解消など、重要課題は山積している。本書が世界をより良く変える手がかりとなることを願っている。
(MITテクノロジーレビュー[日本版]編集部)
MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.4/Summer 2021
10 Breakthrough Technologies
- 定価: 2,200円(本体2,000円+税)
- 発売日:2021年7月12日(印刷版)/7月19日(電子版)
- 判型:A4判/128ページ
- 形態:ムック(雑誌扱い)
- 発行:株式会社角川アスキー総合研究所
- 発売:株式会社KADOKAWA
- 雑誌コード:63692-84/ISBN:978-4-04-911054-8
Vol.4/Summer 2021の主な収録記事
2021年版ブレークスルー・テクノロジー10
MITテクノロジーレビューがその年の最も重要なテクノロジーを選ぶ 「ブレークスルー・テクノロジー 10」は、今年で20年目を迎える。2021 年のリストには、メッセンジャーRNAワクチンのようにすでに私たちの生 活を変えようとしているものもあれば、まだ実用化が何年か先のものも ある。だがいずれも、人類の未来を垣間見せるテクノロジーであると確 信しているものだ。
異例のスピードで実用化された
「メッセンジャーRNAワクチン」が人類にもたらす福音
世界を恐怖に陥れた新型コロナウイルス感染 症。収束への光をもたらしたのは、史上最速 で開発に成功したメッセンジャーRNAだっ た。その技術は、ワクチンのみならず医薬品製造を大きく変える可能性を秘めている。
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- MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]日本版 編集部
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