消えた幻想「シェールガス革命」とは何だったのか?
持続可能エネルギー

The fracking boom is over. Where did all the jobs go? 消えた幻想「シェールガス革命」とは何だったのか?

一時のブームに沸いたシェールガス業界の崩壊は、環境の面からも、雇用の面からも必然であった。同業界が創出すると期待された雇用の数は大幅に水増しされており、しかも、その多くはすでに存在していない。 by Colin Jerolmack2021.07.04

水圧破砕法(フラッキング)と呼ばれるシェールガスと石油の採掘は、米国の製造業において、数百万とまでは行かなくとも数十万人の雇用を創出するとして、しばしば保守派の支持を得てきた。なかでもペンシルベニア州は、「天然ガスのサウジアラビア」とたとえられるほどに、水圧破砕産業の看板的な役割を担っていた。ところが実際には、ペンシルベニアだけでなくオハイオなど近隣の州でも、創出された雇用の数は期待をはるかに下回り、しかも今ではその多くが消滅してしまっている。

例えばサスケハナ川とアパラチア山脈のふもとに挟まれたペンシルベニア州ウィリアムズポートの場合、かつて林業の町として栄えていたものの、今は毎年リトルリーグのワールドシリーズが開催されることで少しばかり名が知られている程度だ。しかしこの町が抱える問題は、「ラストベルト(Rust Belt、「錆びた地帯」の意味)」と呼ばれる米国の斜陽化する工業地帯全体に共通している。ウィリアムズポートの人口は過去60年間で3分の1以上減少し、貧困率は州平均の2倍、今では薬物依存や凶悪犯罪の割合も高い。

2016年の大統領選予備選挙で共和党の指名を目指して出馬していたテッド・クルーズ上院議員が、選挙運動のためビルタウン(地元住民は、親しみを込めてウィリアムズポートのことをこう呼んでいる。ビルは、ウィリアムのニックネーム)を訪れた。当時、ビルタウンはシェールガス採掘のハブへと急速に変わろうとしていた。多くの土地所有者が石油会社へ鉱業権をリースし、町の外には数多くの採掘リグが設置された。水や砂を運ぶトラックが列をなして田舎道を往来し、石油大手のハリバートン(Halliburton)は巨大な施設を開いて600人を雇用した。クルーズ議員の選挙演説会場になった溶接・金属加工会社のヌーウェルド(NuWeld)は、従業員を60人から290人に増やした。

水圧破砕法の到来に、ビルタウンをはじめ産業力を失ったコミュニティに再び栄光の日々が戻ってくるのではという期待が高まった。クルーズ議員は聴衆を前に、「ペンシルベニアはエネルギーの州です」と宣言した。水圧破砕法は「何百万という高収入の雇用」をもたらす可能性があり、ヌーウェルドはその先駆的存在であると、クルーズ議員は見ていた。ところがそれから2週間もたたないうちに、ヌーウェルドは突然閉鎖された(その後、規模を大幅に縮小して事業を再開している)。

業界全体の「減速」とは、シェール推進者らが使う微妙な表現だが、この地域でそのあおりを受けた会社はヌーウェルドだけではない。ウィリアムズポートにマーセルス・エネルギー・パーク(Marcellus Energy Park)を建設したダン・クリンガーマンは当時、業界は後退しているわけではないと筆者に対して主張していたが、実はひっそりと油田でのトラック輸送会社を畳んでいた。短期滞在の労働者向けに急いで建てられたホテルも、半分が空室のままだ。ハリバートンの現地施設は、従業員を徐々に削減し、今は40人ほどしか残っていない。

2019年になると、「減速」とはやはりかなりの婉曲表現だったことが明らかになった。この状況にはむしろ、「崩壊」という言葉のほうがふさわしい。2012年1月に州全体で114基あった採掘リグは、2019年の同じ月にはわずか19基しか残っていなかった。この数は、水圧破砕ブームが起こる前から州にあった採掘リグの数よりも少ない。

嘘の約束

いったい何があったのか。ブルームバーグの報告にあるように、「そもそも計算が合わなかった」。水圧破砕法は、金がかかるものなのだ。にもかかわらず、化石燃料に対するけた外れに寛大な補助金のせいで、実際のコストが覆い隠されてしまっていた。新しい油田は最初の年で平均60%の減産に直面し、石油会社は生産を増やすことに躍起になった。業界のモデル全体が石油・ガスの高価格を前提としていたのだが、水圧破砕ブームで全国的にガス(そして程度は少ないが石油も)が供給過多状態となり、価 …

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