研究室でペロブスカイト(灰チタン石)太陽電池の試験をするときは、ランニングシューズを履く必要があったものだ。ペロブスカイト材料はあっという間に崩壊してしまうため、科学者は太陽電池を作った場所から試験場まで駆け足で移動し、太陽電池が持った手の中で分解する前(通常は数分以内)に性能を測定しようとした。
安価で高効率な太陽電池を実現できる可能性を秘めたペロブスカイトは、長い間研究者を魅了してきた。そして現在、複数の企業が商用ペロブスカイト太陽電池の大量生産に向けて大きく前進している。
しかし、ペロブスカイトは不安定なことから、屋根や発電所への応用が危ぶまれてきた。少なくとも年内に試験的な製品を市場に投入できるくらいには課題を解決したと言っている企業はいくつかあるが、依然として懐疑的な研究者もいる。
「私に『間違いなく安定した効率的なものとなり、市場を席巻するでしょう』と発言してほしがっている人たちがいます」と語るのは、米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)でペロブスカイト研究プログラムを率いるジョセフ・べリー博士だ。「そう信じる自分もいますが、科学者としての自分は『私にはそれを証明するデータがない』と考えています」。
太陽光を吸収する
ペロブスカイトは、安価で、大量生産も比較的容易な合成材料だ。光起電で一般的に使用されているペロブスカイトは、ハロゲン化メチルアンモニウム鉛のようなものが多いが、ペロブスカイトと同じ結晶構造をもつ材料は何千種類も存在する。柔軟性のあるベース素材にペロブスカイトを塗布(コーティング)すると、軽量で曲げられる薄膜太陽電池を作ることができる。
ここ数十年の間にいくつかの新しい光起電材料が登場したが、シリコンが主流の市場に大きな影響を与えたものはない。シリコンは既存の太陽電池の約95パーセントを占めている。
ポーランドの首都ワルシャワに本社を置くサウレテクノロジー(Saule Technologies)をはじめ、一部のペロブスカイト企業はシリコンから完全に脱却しようとしている。2014年創業の同社は、柔軟なプラスチックで覆われたペロブスカイト系太陽電池を製造するためのインクジェット印刷プロセスを開発した。サウレテクノロジーの太陽電池を集積した太陽光パネルの重さは、同じサイズのシリコン系太陽光パネルの約10分の1だ。
サウレテクノロジーは2021年5月に、年間約4万平方メートルのパネルを生産できる工場を開設した。これは、約10メガワットを発電するのに十分なサイズだ(シリコン太陽電池の製造工場には、その数百倍の規模のものもある)。
ペロブスカイトは高効率を実現する可能性を秘めている(ペロブスカイト単体の太陽電池の変換効率の世界記録は25パーセント強)。だが、現在最も性能の高いペロブスカイト太陽電池のほとんどは、幅1インチ(約2.5cm)にも満たないとても小さなものである。
スケールアップすると達成可能な最高効率に到達することが困難になる。現在、サウレテクノロジーの太陽光パネルは幅1メートルで、変換効率は約10パーセントに達している。これは、通常約20パーセントの効率を実現する同サイズの市販のシリコン太陽光パネルと比べるとかなり見劣りする。
サウレテクノロジーの創業者兼最高技術責任者(CTO)であるオルガ・マリンキエヴィツ博士は、同社の目標はペロブスカイト単体の太陽電池を世に送り出すことであり、ある程度安価であれば変換効率の低さは問 …