高温高圧の厳しい環境にある金星に生物が生存することは、実際のところ不可能であろうと長らく考えられてきた。そのため、2020年9月に科学者が、金星の大気中に潜在的な生命体の痕跡となるホスフィンガスを発見した可能性があると発表したとき、金星の雲の中に微生物が生きているのではないか、と考えた者もいた。
だが、その期待は抑えた方がよいかもしれない。ネイチャー・アストロノミー誌(Nature Astronomy)で発表された新たな研究論文は、金星には、私たちが知るような生物を育む十分な水がまったくないことを示している。
「よく知られているように、生物にはもちろん水が必要です」と、クイーンズ大学ベルファストの微生物学者であり、今回の研究論文の筆頭執筆者であるジョン・ホールズワース博士は述べる。同博士らの新たな研究結果によると、金星の雲の水濃度は、地球上で最も回復力のある微生物が生き残るのに必要とする濃度の「100分の1以下しかない」という。「尺度のほぼ底辺にあります。生命が活動するのに必要になるレベルとの間に歴然とした距離があるのです」。
1978年、米国航空宇宙局(NASA)は、オービター(軌道船)と、金星の大気圏に投入された4つの小さなプローブ(探査機)で構成するパイオニア・ヴィーナス(Pioneer Venus)ミッションを打ち上げた。同ミッションでは、金星の大気中には重水素の兆候が見られた。重水素は水の分解から生じる可能性がある水素の重同位体だ。科学者チームは、金星にはかつて大量の水が存在したのではないか、そして、水のいくらかは大気中に大量に残っているのではないだろうかと思った。
2020年まで話を進めると、金星の大気中に微量のホスフィン …