KADOKAWA Technology Review
×
2024年を代表する若きイノベーターたちに会える!【11/20】は東京・日本橋のIU35 Japan Summitへ
信用スコアに潜む「バイアス」以外の問題 大規模研究で判明した根深さ
Ms Tech | Cindy Tang/Unsplash
ニュース 無料会員限定
Bias isn’t the only problem with credit scores—and no, AI can’t help

信用スコアに潜む「バイアス」以外の問題 大規模研究で判明した根深さ

ローン貸し出し承認の可否判断に使われる予測ツールで、マイノリティに対して正確さが落ちるのは、バイアスだけが原因ではない。正確な信用履歴データが足りないからだ。ただ、その問題の解決は簡単ではない。 by Will Douglas Heaven2021.06.24

バイアス(偏り)のあるデータやアルゴリズムによって、低所得者層やマイノリティ集団が自動的に不利になるよう意思決定が歪められることは、すでに知られている。例えば、ローンをきちんと返済するかどうかを予測する銀行のソフトウェアは、通常は裕福な白人の申込者に有利に働く。多くの研究者とスタートアップ企業がこうしたアルゴリズムをもっと公平にすることで、問題を解決しようと取り組んでいる。

だが、スタンフォード大学のローラ・ブラットナー助教授とシカゴ大学のスコット・ネルソン助教授の2人の経済学者が実施した過去最大規模のローン貸付けデータの研究によって、マイノリティとマジョリティ間でローン貸付け判断が異なる別の理由が明らかになった。バイアスに加えて、マイノリティや低所得者集団では信用履歴データが少ないことも原因だという。

すなわち、借り手の債務不履行の可能性を、過去の信用履歴データを使って信用スコアを計算し、そのスコアをもとに予測するなら、予測精度は低くなる。不平等を生む原因は精度の不足であって、バイアスだけではないという。

影響は明白だ。公平なアルゴリズムだけでは、この問題を解決できない。

ハーバード大学で機械学習と経済学を研究するアシェシュ・ランバチャン博士(今回の研究には関与していない)は、「これは本当に衝撃的な結果です」とコメントする。バイアスと不完全な信用記録はここしばらくホットな話題となっているが、今回の研究は膨大な数の実在する人々のローン申込みに注目した初の大規模研究となる。

信用スコアは、雇用履歴や財務記録、購買習慣など広範な社会経済的データを1つの数字に凝縮したものだ。今では、ローンの申込みに関わる判断以外にも、保険や雇用、不動産など人生を変えるような多くの判断に信用スコアが使われている。

ブラットナー助教授とネルソン助教授は、マイノリティ集団とマジョリティ集団が、ローンの貸し手から異なる扱いを受ける理由を解明するため、匿名化された5000万人の米国消費者の信用情報を収集。マーケティング用データセットから取得した社会経済的な詳細情報、不動産権利書と住宅ローン契約、融資したローンの貸し手に関するデータと結びつけて分析した。

今回のような研究がこれまで実施されてことなかったのは、こうしたデータセットが企業秘密であり、研究者には公開されていないからだ。ブラットナー助教授は、「私たちはこの研究のために信用調査機関へ依頼し、実際に多額の費用を払わねばなりませんでした」と述べている。

ノイズを含んだデータ

ブラットナー助教授とネルソン助教授がさまざまな予測アルゴリズムを試した結果、信用スコアにはバイアスだけでなく、統計用語で言うところの「ノイズ」が含まれることがわかった。ノイズとは、正確な予測に無関係のデータのことだ。信用スコア620のマイノリティのローン申込者を例にとってみよう。もしシステムに …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
  2. Inside a fusion energy facility 2026年の稼働目指す、コモンウェルスの核融合施設へ行ってみた
  3. How ChatGPT search paves the way for AI agents 脱チャットGPTへ、オープンAIが強化するプラットフォーム戦略
▼Promotion イノベーター under35 2024
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る