フェイスブック、トランプ前大統領「2年凍結」決定は妥当か?
フェイスブックはドナルド・トランプ前大統領のアカウントを正式に2年間凍結した。だがこの決定は多くの問題を提起している。2年間のアカウント凍結は十分な措置なのか?公平なものなのか?これまでのフェイスブックの行動に照らし合わせるといくつもの疑問が残る。 by Eileen Guo2021.06.09
フェイスブックは6月4日、少なくとも2023年1月7日までの2年間、ドナルド・トランプ前大統領が同社のソーシャルネットワークを利用することを禁じると発表した。同時に、「条件を満たせば復帰できる」とも述べた。
この発表は、フェイスブックが最近設置した監督委員会(Oversight Board)が出した先月の勧告に応えたものだ。フェイスブックは、監督委員会がトランプ前大統領のアカウントをどう扱うべきか決めてくれると期待していたが、期待通りには行かなかった。監督委員会は、トランプ前大統領がフェイスブックを利用することを禁止するという同社の当初の決定を支持した。1月6日に起こった米議会議事堂襲撃事件を扇動したことがその理由だ。しかし、長期的観点に立った決定については、経営陣にボールを投げ返した。
トランプ前大統領がさらに19カ月間、フェイスブックの利用を禁止されるというニュースは、フェイスブックと前大統領との関係について、なんらかの答えとなるはずだったが、むしろ多くの未解決の問題を残してしまった格好だ。
誰がこの決定を喜ぶのか?
今回の発表では、政治家がフェイスブックをどのように利用できるかを定めたいくつかのルールと、そのルールの適用指針がいくつか提示されている。ただ、最低2年間、トランプ前統領のアカウントを停止するという決定は、誰もが支持する答えにはならないだろう。ウルトラヴァイオレット(Ultoraviolet)やメディア・マターズ(Media Matters)などの権利擁護団体は、フェイスブックに対してトランプ前統領の利用禁止処分を長らく迫ってきたが、恒久的に禁止しなければならないという声明を出した。一方、保守的な政治家に押しつけられるあらゆるルールは、反保守に偏っていることの証拠だと感じている人々は、変わらずその考えを抱き続ける。その反対こそが真実であると示す多くの証拠があっても、だ。そして今回の決定は、2024年の米国大統領選挙に向けて、トランプ前統領がネット上に戻ってくる可能性を残している。
「報道価値の例外」は「全面的な例外」に
フェイスブックを含む多くのソーシャルネットワーキング・サービスは、政治家や世界のリーダーに対して独自のルールを強制せずに済ませるように、「報道価値の例外」を活用してきた。フェイスブックの発表には同社が今後、その抜け穴を利用する方法に関するいくつかの変更点が含まれている。まずフェイスブックは、アカウントにこのルールを適用するたびに通知を出すと言う。第二に、このルールを適用する際は「政治家が投稿したコンテンツを、他の誰かが投稿したコンテンツと同等に扱う」としている。これは基本的に、「規則を破るコンテンツ」から得られる公共の利益が、そのコンテンツをネット上に残しておくことによって起こりうる害を上回るかどうか判断する余地を残していることを意味する。
フェイスブックは2016年後半に、この方針を正式に導入した。ベトナム戦争の象徴的な写真にヌードが写っていたため、その写真を検閲した後のことだ。しかし、「報道価値の例外」は、トランプ前大統領などの政治家に向けた「全面的な例外」へと進化し、「規則を破るコンテンツ」が「公共の利益」という理由でネット上に残ることを許してしまった。今回の発表はこの全面的な保護(全面的な例外)を終わらせるもののように見えるが、完全にそれを取り除くわけではない。フェイスブックがどのようにして例外と判断するのかについての詳細な説明はない。
誰が決定を下すのか?
今回の発表は、フェイスブックの国際渉外担当副社長のニック・クレッグが執筆したものだが、全体を通して「私たち」が文の主体となっている。フェイスブックの誰が意思決定の過程に関与するのかは特定していないのだ。その決定が論争の的になりやすいという性質を考えると、透明性と信頼性を保つ上で重要なことのはずだ。
「今回の決定が、政治的分断の両極にいる多くの人々から批判を受けることは承知しています。しかし私たちの仕事は、可能な限りバランスのとれた、公正で透明な方法で決定を下すことです」と、クレッグ副社長は書いている。
専門家の意見を聞こうとしないフェイスブック
また、発表でフェイスブックは「公共の安全へのリスクが減少したかどうか専門家に評価してもらう」としている。しかし、どの専門家に評価してもらうのか、専門家たちはどのような専門知識で貢献するのかを明らかにしていない。また、フェイスブック(あるいはフェイスブックの誰か)が、どのようにして専門家の見識に基づいて意思決定する権限を持つのかということも明記していない。フェイスブックにとって監督委員会は、議論の的となる決定を外注する手段という側面もあったが、委員会はその役割を果たしたくないという合図をすでに出している。
これは、誰の声がフェイスブックにとって重要であるかを知ることと、誰が助言に基づいて行動する権限を持っているかを知ることが特に重要であることを意味する。リスクの高さを考えればなおさらだ。紛争評価や暴力分析は高度に専門化している分野であり、このような分野におけるフェイスブックのこれまでの対応は、あまり信頼できるものではない。例えば3年前、国連はミャンマーの少数派であるロヒンギャへの攻撃につながる投稿が拡散していることに対応するようフェイスブックに求めたが、「遅く、効果がない」と同社は非難された。フェイスブックは非営利団体「BSR(Business for Social Responsibility)」に第三者による報告書の作成を依頼したが、BSRの報告書は国連の主張を裏付けるものだった。
2018年に発表されたその報告書は、2020年の米国大統領選挙における暴力の可能性について言及し、「複数の不測の事態」に備えて同社が取るべき措置を勧告していた。当時のフェイスブックの経営陣は、「私たちはもっと多くのことができるし、するべきであるということに同意します」と認めていた。しかし2020年の選挙キャンペーンの最中も、トランプ前大統領が大統領職を失った後も、そして、1月6日に発生した米議会議事堂襲撃事件の前も、フェイスブックはこれらの勧告に基づいて行動することはほとんどなかった。
次期大統領選前には解除するのか
そして、利用停止措置に期限があるということと、それにより、この先も同じ論争が起こり、現在よりももっと不都合なことになるかもしれないという事実がある。フェイスブックによる「条件が満たされれば」という定義に基づいて、利用停止措置を延長しない限り、次期大統領選挙の予備選挙前に間に合うように措置が解かれる。そうなるとしたら、どんな問題が起きる可能性があるだろうか。
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- アイリーン・グオ [Eileen Guo]米国版 特集・調査担当上級記者
- 特集・調査担当の上級記者として、テクノロジー産業がどのように私たちの世界を形作っているのか、その過程でしばしば既存の不公正や不平等を定着させているのかをテーマに取材している。以前は、フリーランスの記者およびオーディオ・プロデューサーとして、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ナショナル・ジオグラフィック誌、ワイアードなどで活動していた。