数週間前、ミッシェル・ワトソンは耳をつんざくような、絶え間なく振動する甲高い音で目を覚ました。「この音は一体何?」彼女は疑問に思った。
庭へと出ると、何百匹ものビーズのように目を輝かせた昆虫が、金色の厚い殻をまとって地面から現れ、木を這い上がっているのを目にした。ワトソンが目にしているのは、何千匹もの「ブルードX(Brood X:ブルード・テン)」というセミの出現。総勢何十億という昆虫の群れの一部だ。ブルード・テンの群れは、約3週間にわたっていたるところで、雷のような求愛行動の「金切り声」をあげるために出てくる。それまで17年間、地中に身を潜めていたのだ。
ワトソンは、過去20年間ラスベガスで過ごしていたが、昨年ジョージア州のブルーリッジ山脈に引っ越してきた。ワトソンは、米国東部の広大な地域に、一世代に一度現れるというそのセミについて、ソーシャルメディアに投稿されているのを見たことはあったが、それまでずっと耳にしてきたいつもの夏の虫だと思っていた。「『それがどうしたっていうの?』と思っていました」と彼女は言う。
しかし、奇妙な生き物の襲来に直面し、ワトソンは突然、「何がどうしたというのか」を理解した。そして、現代の人間であれば誰でもするであろうことをした。グーグルで検索したのだ。そして、数分のうちに、セミ追跡アプリ「シケイダ・サファリ(Cicada Safari)」をダウンロードした。
「アイ・ナチュラリスト(iNaturalist)」「ピクチャーディス(PictureThis)」「プランティン(PlantIn)」などのアプリは、パンデミック中の息抜きとして人気を博している。これらのアプリの多くは、デジタル資源としての機能を果たし、ユーザーは科学的研究のために写真や動画を投稿できる。これらのアプリの成功に触発され、マウント・セント・ジョゼフ大学の生物学教授であるジーン・クリツキーは、ブルード・テンを追跡する方法として、独自サービスのシケイダ・サファリを作った。
クラウドソーシングは、一世代に一度しか起こらないブルード・テン大量発生の情報を収集するために、これまでもずっと使われてきた、とクリツキー教授は言う。185 …