2021年6月1日、ドイツなど7カ国は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するデジタルワクチン・パスポートシステムの運用を開始した。ドイツのほかブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、デンマーク、ギリシャ、ポーランドがパスポートを発行している。このパスポートは「デジタル・グリーン証明書(digital green certificate)」と呼ばれるもので、7月1日からは欧州連合(EU)加盟27カ国が運用を始める予定だ。パスポート所有者は、新型コロナのワクチン接種を完了している、新型コロナから完全に回復している、72時間以内の検査で陰性、のいずれかであることを発行者が証明する。証明があれば、旅行中に検査や隔離を要求されることはなくなる。
証明書はQRコードの形で届く。携帯電話に保存するだけでなく、印刷も可能だ。欧州委員会は、データはセキュリティとプライバシー保護のため、パスポートが必要なくなった後には廃棄されると説明する。
EUは世界の他地域に先駆けて、パンデミック後の世界を行き交う人々の移動を可能にしようとしている。EUは現在、今夏に域内を訪れる米国人旅行者のワクチン接種状況をどのようにしてチェックするか、米国と協議中だ。ただし、ワクチン・パスポートは、不平等を助長しかねないと心配する倫理学者やデータプライバシーの専門家に懸念を起こさせそうだ(その理由については、MITテクノロジーレビューに掲載しているこの問題についての記事を併せて読んでほしい)。
どちらにせよ、ワクチン・パスポートが米国内の旅行で、一般に受け入れられることは今のところなさそうだ。アラバマ州、アリゾナ州、フロリダ州、ジョージア州などいくつかの州は禁止している。米国初となる行政府発行のワクチン・パスポートである、ニューヨーク州の「エクセルシオール・パス(Excelsior Pass)」は100万回以上ダウンロードされた。しかしその数は、ワクチン接種を受けたおよそ900万人と比べるとほんの一部にすぎない。大多数の企業もまだ利用していない。
パスポートを先行導入した国も、廃止に向かいつつある。イスラエルは早くからワクチンパスポートを開始した国の一国だった。「グリーン・パス」はワクチンを接種済みであることを証明できる人に、レストランやスポーツイベントへの入場を許可することを狙ったものだ。しかしイスラエル全国でワクチン接種が進み、国内の新型コロナウイルス感染者数は2桁まで下がっている。イスラエルはすべての人の行動を完全に開放する方向に動いており、今週この証明書を廃止した。