インドを覆う深い悲しみ 破壊された伝統、ネットで死と向き合う
新型コロナウイルス感染症の壊滅的な第2波に襲われているインドの人々は、ネットを使って悲しみに対処しようとしている。だが、インドでネットにアクセスできるのは、ごく限られた裕福な人たちだけだ。 by Tanya Basu2021.06.01
インドの2021年春は、身の毛もよだつような恐ろしい季節となった。救急車は絶えずサイレンを鳴り響かせ、火葬用の薪の山は24時間燃え続け、果てしない数の遺体袋は積み重ねられ、深い悲しみが空気中に重く漂っている。
1年前、インドは新型コロナウイルスによる最悪の状態から逃げ切ったかのように見えた。西欧諸国が悪戦苦闘している間、インドは比較的無傷で、2020年9月下旬に1日あたりの死者約1300人という最高値を出した後、再び底を打った。2021年に入ると、ナレンドラ・モディ首相は、インドは新型コロナウイルスとの戦いに勝利したと宣言した。1月28日に世界経済フォーラムのダボス・ダイアローグでオンライン登壇したモディ首相は、インドの「積極的な国民参加の手法、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に特化した保健インフラ、そして同感染症との戦いに向けて訓練された人的資源」について誇らしげに語った。
その後、ワクチン接種が増加し始め、症例も減少し続けたため、3月下旬と4月上旬の行事へ向けて対策が緩和された。だが、結果的にはこれらの行事が壊滅的なスーパー・スプレッダー・イベントとなってしまった。クンブ・メーラ(インドの4つの神聖な川へ巡礼するヒンドゥー教の行事)と、西ベンガル州、ケーララ州、アッサム州、タミル・ナードゥ州で開催された大規模選挙集会だ。人でごった返すこれらの行事は、マスクを着用していない大勢の人々をはるばる現地へと呼び寄せた。数週間もたたないうちに、医療システムは崩壊した。この5月は、インドのこれまでの新型コロナウイルス感染症との戦いにおいて最も悲惨な月であり、死者数においてインドをブラジルと米国に続く第3位に位置付けた。当局によると、これまでに新型コロナウイルス感染症で31万1000人以上のインド人が死亡したとされるが、実際の死亡者数はそれよりはるかに多いと考えられている。
他の場所と同様に、伝統的な悲しみ方が完全に破壊された現在、人々はこれらの死に対処するのに苦労している。テキサス州立大学でヒンドゥー教と仏教の死の儀式を研究している宗教学者のナターシャ・ミクルズ教授は、何千年も続く伝統が無視されなければならなかったと述べる。「ヒンドゥー教とジャイナ教では、伝統的に長男が火葬用の薪に火をつける責任があります」とミクルズ教授は言う。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染力と致死率は、多くの場合、長男の都合がつかないこと、ひどい場合は死亡していることを意味する。つまり、各家庭は、親戚に家族の死について知らせるという仕事にすでに打ちのめされているのに、家族を火葬したり埋葬したりする方法を考え出さなければならないということだ。
「死の儀式は、文化の中で最も伝統的な部分に含まれます」とミクルズ教授は言う。「その多くは非常に深く根付いているため、変化させるには文化的な大変動が必要です。パンデミックが猛威を振るう中、嘆き悲しむ方法が変化しているのを目の当たりにしています」。
https://twitter.com/ARUNSHARMAJI/status/1385439504136237067
オンライン空間は、深い悲しみを表現し、インド政府の危機対応について怒りを発散させる重要な討論の場を提供してきた。死に直面した家庭は、その苦しみをワッツアップ(WhatsApp)グループで分かち合っている。クラウド・ソーシングによる支援をしている相互扶助組織のボランティアは、亡くなった人々のための悲しみに浸っている暇もなく、次 …
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